お役立ちコラム

キニナル・コトバ 第25回「ピーターの法則を打ち破る方法」

 今回は、「ピーターの法則」という言葉を取り上げましょう。
このピーターの法則、ずいぶん昔からある話で、社会学の法則なんですが、あまりに皮肉が効いているため、真面目な「法則」というよりは、ちょっとジョークを含んだ逆説として取り上げられがちです。
 この法則は、「実力主義の組織は、いつの間にか無能な人間であふれてしまう」という内容であり、その理由を説明しています。
 ええ? 実力主義で実力のある人がどんどん採用され、評価されるなら、有能な人でいっぱいなんじゃないの、と思いがちですが、そうはいきません。
 いったい、ピーターの法則というのは、どんな法則なのでしょうか。
 
■ピーターの法則とは

 ピーターの法則とは、1969年にアメリカの教育学者、ローレンス・J・ピーターがレイモンド・ハルとの共著の中で示した法則です。
 それはこういうものです。
(1)実力主義の会社や団体、組織では、能力のある人は評価されて次々と昇進していく。
(2)ところが、昇進するにつれて仕事がどんどん難しくなる。能力のある人も、昇進を続けていくと、やがて仕事が難しくなってできなくなり、役に立たなくなる=つまり無能になる。
(3)無能になると、評価されなくなるので、昇進がストップする。無能の人間がその職に残る。
(4)これが繰り返されると、全部のポストが無能な人間で占められる。組織は無能であふれかえることになる。

 …確かにそうかもしれません…。
 いや、現実にはなかなかそうはならないんでしょうけど。
 すごい屁理屈に聞こえますよね。
 この法則は、大企業やお役所みたいな巨大組織の役職は無能ばかり…、という「からかい」としてもよく取り上げられます。
 じゃあ、そんな組織はどうやって回ってるんだ、というと、残された少数の人で回してるんだそうです。本当ですかね。
■ピーターの法則を打ち破る方法

 ピーターの法則は、人間だけでなく、より一般的なモノにも(つまりなんにでも)当てはまるそうです。
 たとえば、疲れによく効く薬があったとして、それを信用しすぎて風邪や他の病気の時にも飲んでいると、やがて効かない症状が出てくる。なんだこれ、効かない薬だなあ、と評価されてしまったり。
 また、掃除機の力が強いので、別のいろいろな吸引物に使っていくと、しまいに効果がなくなって、ダメな機械だと判断されてしまったり。
 ピーターの法則は、より大きな「何にでも効果のあるものは、存在しない」という法則の、人間関係版だということなんですね。
 実力主義が陥りがちな問題が、ここで露わになったわけです。
 
 では、こんな「実力主義を無力化してしまう」ピーターの法則を打ち破る方法はあるのでしょうか。
 その方法はピーター自身が指摘しているのですが。
その一つは、「実力主義によらず、カーストのような階級社会の方が、不適切な配置や昇進を避けられ、より効率的な社会を実現できる」というものです。
階級社会なら、上級職は高い階層の者で占められます。低い階層の者は、一定以上の職に昇ることがないので、不適切な昇進は実現しません。その結果、効率的な組織が実現できるというのです。
なんということでしょうか。
「実力主義」は、古い階級社会で、実力があるのに上の階層へ進めない、昇進できないという問題を解決するために生まれたものでした。
ところが、実力主義より階級社会の方がより効率的だという結論が出てしまったのです。
困ってしまいますよね。

そこで現実的な解決としては、次のような方法が考えられています。
(1)昇進の問題は、上位・下位といった問題ではなく、技術を持った「実務」と、人を管理する「マネジメント」という別の仕事である。それをいっしょくたに考えるから困ったことが出てくる。
(2)現在の「実務」の仕事にある程度の能力を示しているものは、希望がなければ特に昇進させない。その代わりに昇給させる。
(3)「マネジメント」などの新たな職に就く者には、専用の訓練をしっかり行う。そして、その訓練が十分にできたと考えられた場合にのみ昇進させる。

 なるほど、こうすれば階級社会に戻らなくても、実力主義と併用して、理にかなった昇進制度を作れそうですね。
 ただ、この方法もよく考えると「管理職になって責任を背負わなくても、実務を続けていれば昇給していくなら、無理して管理職になりたがる人はいなくなるのでは」という問題が出てきそうです。
 最近は、管理職になりたがらない人も多い時代。人材の適切な配置はかくも難しいものでしょうか。