お役立ちコラム

キニナル・コトバ 第9回「レベニューキャップ制度」


 レベニューキャップ制度。これまた聞きなれない言葉が出てきました。レベニューキャップ制度とは、電気を発電所から一般のユーザーまで送る「一般送配電事業者」の料金(託送料金)に関わる制度です。2023年4月から施工された、電力の未来を決める新しい制度なんですが、ちょっとどういうものか見てみましょう。

■「託送料金」とは
 
 まず、「託送料金」と言っても分かりにくいでしょうから、そこから説明しましょう。
 日本の電力は、発電所が電力を作り、送電線ネットワークを通って、自宅やオフィスまで電力が送られます。このうち、発電は発電事業者が行います。ユーザーに電気を売るのは、電力会社(小売電気事業者)です。
 そして、送電線ネットワークで電気を送るのが「一般送配電事業者」で、その電気を送るのにかかる料金が「託送料金」なのです。
 託送料金は、電気料金の中に含まれます。電気料金の、だいたい3割くらいが託送料金です。託送料金は、電力会社が受け取った電気料金の中から、送配電事業者に支払われます。
 一般送配電事業者は全国で10エリア、10社がほぼ独占して事業を行っています。

■これまでの「託送料金」は、総括原価方式だった
 
 その託送料金は、これまで古くからある「総括原価方式」で決められていました。
 総括原価方式は、将来3年間にわたってかかる経費を計算し、3%の事業報酬を足して、そこから電気料金以外の利益を引いたものを「総原価」として計算するものです。託送料金は、その総原価をユーザーごとに頭割りにして計算されていました。
 この総括原価方式は、利益率が3%と決まっているため、経営を効率化してコストカットをしても、翌年の託送料金が下がるだけで、会社の利益にならないというデメリットがありました。
 また、送配電事業は全国で10エリア、10社の独占事業で、総括原価方式では利益が決まっているので、競争原理が働きにくく、経営努力を怠る危険性もあります。
 また、一般送配電事業者の抱える課題として、
 ●系統(送電線ネットワーク)の設備の老朽化が進んでおり、設備投資をして、補修を行わなければならない。
 ●太陽光発電や風力発電を積極的に導入していくために、系統を増強していかなければならない。
 というものがありました。送配電設備の増強が必要となってきていたのです。
 そこで、2023年4月から、従来の総括原価方式に変えて、レベニューキャップ制度が導入されることになったのです。

■「レベニューキャップ制度」とは

 今回導入されるレベニューキャップ制度は、ひとことで言うと、「上限を決めておいて、あとは営業努力で経費を削減すれば、いくらでも利益を上げられる」という方式です。営業努力をするだけ、利益が上がることになり、効率化が進みます。
 レベニューキャップ制度では、一般送配電事業者は、国の指針にもとづき、まず将来5年間の「規制期間」を定め、事業計画と、投資・費用の見通しを決めます。
 その見通しを元に国が審査をし、5年間固定の「収入上限」を決めます。託送料金は、収入上限を超えない範囲で自由に設定することができます。
 上限が決まっているので、送配電事業者は、コスト削減を行えば行うほど、利益が出せます。それで、効率化が促進され、無駄な投資も避けられる、というわけです。

 5年間の規制期間の終了後は、国が送配電事業者に対し、どれだけ経営が効率化できたかを判定します。
 そして、経営努力して効率化した、と認められるコストの半分を、次の5年間の自分たちの収益にすることができます。
 もう半分は、次の5年間でユーザーに還元することで、託送料金の値下げを行います。

■「レベニューキャップ制度」の今後

 レベニューキャップ制度の実施に基づき、昨年2022年の7月に、一般送配電事業者10社が事業計画を提出しました。その後、国の審査が行われ、12月には2023年4月~2028年3月の「収入上限」が設定されました。
 これによれば、各社とも5~15%程度の値上げとなるようです。
 制度改革を行っても結局値上げか、と思われそうですが、これにより各社が効率化と送配電ネットワークの増強を進めることができます。将来的には、効率化により託送料金が値下がりし、一般ユーザーの電気料金も下がることが期待されます。
 この制度が、硬直化した旧制度をほぐし、より柔軟で強靭な日本のインフラを作ることを期待したいと思います。