【電力コラム】増えゆく電力需要の原因は?
作成日:2025.01.27 更新日:2025.01.27 公開日:2025.01.27

この2年のうちに、電力業界でまったく状況が変わった点がいくつかあります。
それは、今後減少を続けていく、と思われていた電力需要予測が増加に転じたことです。
これまで、日本の電力需要の予測値(目標値)は、資源エネルギー庁が発表した『2030年度におけるエネルギー需給の見通し』(令和3年9月)などによっています。
これによると、日本の電力需要は2013年度には9896億kWhだったものが、2030年度には8640億kWh程度に下がると予測されます。
この数値の算定には、2030年度には2013年度比で1.4%/年の経済成長が見込まれ、また人口は約0.6%減少、旅客輸送量は2%減るとの想定があります。その上で、野心的な省エネを進め、2280億kWh程度、対策前より約21%の省エネを行うとしていたのでした。
そして、資源エネルギー庁の2023年度の電力調査統計では、需要電力量合計(電気事業者の販売電力量+電気事業者の特定供給・自家消費)は、8496.3億kWhで、対前年比2.0%減となっていました。この量には、電気事業者のみの量しか含まれていませんので、実情はもっと多いものとなります。しかし、前年比で2.0%減少と、着実に需要電力量が減っていることが見られます。
ところが、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が2025年1月に発表した、今後10年間の電力需要予測によると、2035年の需要電力量は、2024年度に比べ、約6%も増加するというのです。
OCCTOの推定値を見ると、電力需要量(使用端合計)は、2013年度の約8600億kWhをピークに、2023年度までは漸減傾向でした。2023年度には約8000億kWhまで減少していきます。しかし、2023年度を底に2024年度からは増加に転じ、2034年度には8524億kWh。2024年度と比較すると、約180億kWhの増加が予測されるのです。
いったい、どうして減少から一転増加傾向になったのでしょうか。
その一因としては、昨今のAI技術の進展と、一般利用の急激な増加が挙げられます。
最近では、生成AIによる文書・動画などのメディア作成や、ビッグデータの分析が盛んです。そもそも生成AIは、小規模な計算1つでも膨大な電力を消費し、発熱します。たとえば、生成AIツールのひとつ、ChatGPTを動かすには、20~50の質問をするたびに500mlの真水が必要だという研究もあるほどです。
それだけ膨大な電力を消費し、熱を出す生成AIの計算は、IT企業が全世界に設置しているデータセンターで行われています。このデータセンターや半導体工場の建設が、日本でも急速なスピードで行われているからです。
我が国では、IT技術の面で先進各国から遅れをとっており、デジタルインフラの充実を急務としています。そこで、データセンターや半導体工場を首都圏、関西、中部だけでなく、九州、北海道など広いエリアで進めています。今後、こうしたデジタルインフラは日本国内に林立することが予想されます。
それは、日本の急速な人口減少による電力消費の低下や節電・省エネ努力などを上回るスピードで電気を食うと考えられているのです。
新たな電力需要は、ほんの2、3年前のAIブームより生まれたものです。電力消費は家庭用では今後も低下しますので問題とはなりません。ただ、新しくかつ予期せぬ需要増に我々は新たなインフラ整備を必要とせざるを得ないのです。
今後、データセンター専用の発電設備の建設も進むと思われますし、より効率がよく消費電力の低いハードウェアが生まれる可能性もあります。しかし、デジタル時代ならではの電力需要増に、今後の節電・消費対策に新たな問題として出現してきています。