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【電力コラム】材料費高騰の波が直撃! 岐路に立つ洋上風力発電

●期待される「洋上風力発電」

 環境に優しいエネルギー「再エネ(再生可能エネルギー)」。発電に利用しても有害な温室効果ガスを発生させません。太陽光や風力発電、バイオマス、水力などが再エネに含まれます。
 再エネの代表といえば太陽光発電ですが、その後を追って今後主力になると期待されているのが「風力発電」です。あなたも、山あいや海辺にそびえる巨大な風車を見たことがあるかもしれません。あの風車が回って発電機を回し、電力を生み出しているのです。
 特に、風力発電はヨーロッパを中心に発展しています。
 ヨーロッパでは、昔から風力発電が盛んでした。1970年代にデンマークで初の陸上風力発電が運用を開始。現在ではデンマークで発電量の50%以上を風力が担い、またイギリスでも全発電量の20%以上が風力です。デンマークやイギリスなどがとり巻く北海沿岸は、遠浅の海が広がり、強風が年中吹きます。風力発電機を設置しやすい条件が揃っているのです。
 洋上風力発電は、陸上と違い、周辺の環境にさほど配慮をしなくてもよく、大規模にしやすいというメリットがあります。洋上風力発電所は、従来の考えでは大規模になるほどコストダウンができ、工期も1年~数年と短くできます。イギリスでは、世界最大級の洋上風力発電所を次々に建設したため、コストが下がり、一時は1kWhあたり10円以下と、化石燃料に劣らないケースも現れてきました。

●洋上風力発電に襲いかかるインフレ

 ところが、そんなメリットばかりの洋上風力発電所ですが、最近、苦境に立たされています。問題となっているのは、材料費の高騰です。アメリカの好景気や、ロシア・ウクライナ戦争の長期化などで、インフレと資材不足が起き、資材価格が1.5倍以上に跳ね上がったのです。低コストを見込んでいた、世界の電力会社は洋上風力の新規建設を一気に減速させました。
 資材価格高騰で、世界の洋上風力最大手である、デンマークのオーステッド社は、大幅な利益の減損を報告しました。オーステッド社の減損の対象になったのは、主にアメリカ向けの事業です。トランプ大統領は、地球温暖化には否定的なので、新規の洋上風力発電所の建設に、公有地を貸すことを凍結しました。一般にアメリカでは、洋上風力向けの沖合は、政府が事業者に貸し出しを行うため、大きな打撃です。
 開発費の急増とトランプ大統領の政策により、洋上風力発電の進展は大きな打撃を受けています。

●日本での状況

 では、一方で日本はどうなのでしょうか。我が国は島国なので、海岸線が長く、排他的経済水域も広いため、洋上風力発電向きと言われています。ただし、水深50m未満の浅瀬が少ないので、海底に固定する方式の風車が建てにくいというデメリットがあります。
 また、洋上に建設する場合は、海を数10年にわたって占有する必要があり、その法整備も遅れていました。
 しかし、政府では2050年のカーボンニュートラルに向けて、再エネを日本の主力電源に据えるという目標があり、洋上風力は「主力電源の切り札」とされました。
 この目標の遂行により、2019年に「再エネ海域利用法」が施行され、洋上風力の実現に向けての前進がありました。この法律は、洋上風力を導入する「促進地域」を定め、事業者の選定と計画を進めるというものです。指定された海域では、事業者が最大30年間占有を行えることになりました。
 法律に基づいて、2024年9月段階で、秋田や千葉をはじめ、国内10カ所が促進地域に選定。また9カ所が有望地域に、11カ所が一定の準備段階に進んでいる区域に指定されました。
 2021年12月には秋田県沖などの第1回公募入札が行われ、三菱商事などが落札しました。その後、2024年12月までに3回の入札が行われ、各社が権利を落札しています。
 着工も、長崎県五島市沖で2022年に行われたのを筆頭に、福岡県響灘沖では2023年着工。秋田県由利本荘沖では、2026年に着工開始予定です。
 また、再エネ海域法による以外でも、秋田県能代港と秋田港で洋上風力発電所が2023年1月から運用を開始しています。

●日本でも危機が

 こうして着々と進んでいるかに見えた洋上風力発電でしたが、順風満帆とはいえません。問題は、先にも上げた、建築資材費の高騰問題です。
 第1回の公募入札で3海域の開発権利を取得したのは三菱商事のグループでしたが、2024年4~12月の決算で500億円以上の損失を計上しました。損失の原因は、世界的なインフレや円安による資材・建設コストの高騰とのことです。洋上風力発電は、1基で数万点の部品を必要とし、経済効果も大きいのがメリットでしたが、今回はその部品点数の多さが資材コストに影響もしたようです。また、完成時期に関しても当初は2028年9月以降とのことでしたが、遅れが発生するのは必至で、三菱商事側は費用・工期を含め、「ゼロベースから見直す」と回答しました。また、第3回の公募でも、調査を行ったものの、採算が困難だと入札に参加しない企業が多数現れました。
 日本全体、また世界を覆うインフレと円安がここでも大きな影を落としています。
 こうした状況を見て、日本では2025年から洋上風力発電の事業公募のあり方を見直すことを決定しました。これまではコストの安さと工期の速さを重視していましたが、物価の変動によるリスクへの対応策などが評価に含まれるようになります。具体的には、資材の高騰でかかったコストを40%まで電気料金に反映できるようにしました。世界の経済情勢が動く中、確実に建設が進められるプランを優先しようという意図でしょう。

●着床式の開発など今後の課題

 他にも洋上風力に関する課題は、いくつかあります。ひとつは「浮体式」の洋上風力発電設備です。現在の洋上風力の風車は、海底に直接基盤を設置する「着床式」が主流です。しかし日本では浅瀬が少なく、好適地は多くありません。そこで、風車をブイのように浮かべ、海底にはアンカーなどで係留する「浮体式」に期待が持たれています。
 海外ではすでに、スウェーデンのエクイノール社がデンマーク沖に浮体式の洋上風力発電を設置するなど、開発が進められています。日本ではまだ実証実験の段階ですので、実用化するのはまだ先のことと思われます。
 さらに、洋上風力で作った電力を地上まで送り届ける電力系統(送配電などの電力ネットワーク)の整備も必要となってきます。現状では、洋上・陸上を問わず、風力発電に適した土地である北海道や東北の日本海側から首都圏などへ十分な送電ができるだけの系統整備は、まだまだ進んでいません。
 こうして課題が山積している風力発電ですが、将来的には日本の主力電源として活躍が期待されています。関係者の努力が望まれます。