【電力コラム】米トランプ政権で日本の電力業界への影響は?
作成日:2025.05.05 更新日:2025.05.05 公開日:2025.05.05

2024年秋に行われたアメリカ大統領選挙。ご存じの通り、共和党のドナルド・トランプ氏が民主党のバイデン氏を破り、4年ぶりに大統領に返り咲きました。
トランプ新大統領は就任直後、予告通り記録的な数の大統領令にサインしました。
その中には、アメリカのエネルギー政策や気候変動、脱炭素化に関するものも含まれていました。たとえば、選挙戦での公約にあった「『パリ協定』からの2度目の離脱」がそうです。世界第1位のGDPと経済力・軍事力を誇る国として、アメリカの政策は、日本の電力事情に大きな影響を与えます。トランプ氏の政策にはどのようなものがあるのでしょうか。ここで一つ、それらを見てみましょう。(『パリ協定』とは何であるかは、詳しくは他の項目をご確認ください。)
●パリ協定からの離脱
トランプ大統領が就任直後にサインした大統領令は100以上に及びます。その中で、エネルギー政策に関しては、以下のものが挙げられます。
・第14148号 有害な大統領令および行政措置の撤廃
・第14153号 アラスカの並外れた資源ポテンシャルの解放
・第14154号 アメリカのエネルギーの解放
・第14156号 国家エネルギー緊急事態宣言
・第14162号 国際環境協定においてのアメリカ第一主義
・第14213号 国家エネルギー会議設立
このうち注目されるのは、就任初日に出された第14148号です。「有害な大統領令」とは、バイデン前大統領が出したものを指します。対象となったのはDEI(多様性や公平性に関する政策)、国境政策などに加え、気候変動に関するものが標的となりました。
トランプ大統領は、気候変動対策に積極的だったバイデン氏の大統領令を「有害である」と廃止。気候変動政策の策定や実施を行っていた大統領府国内気候政策局や国家気候タスクフォースなどの解散を決めました。
また、第14162号の「国際環境協定においてのアメリカ第一主義」では、環境保護に対してアメリカが世界の主導的な役割を果たす、としつつ、「米国国連大使は、気候変動に関する国際連合枠組条約に基づくパリ協定からの米国の離脱を、直ちに正式な書面により通知しなければならない」としています。
アメリカは、地球温暖化を防ぐために世界が同意し、自らも批准を行ってきた『パリ協定』から2度目の脱退を行ったのです。前バイデン政権が定めた、2050年までの脱炭素化、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出の実質上ゼロ)の目標は、撤回されることになりました。
さらに、第14154号「アメリカのエネルギーの解放」では、「アメリカは世界有数の天然資源に恵まれた国だが、近年、煩雑な考え方によってその開発が妨げられている」とし、積極的な資源探査・開発を進めてエネルギーと天然資源を解き放つことを奨励しています。その一方で、「ガソリン車の販売を阻害する排出ガス規制の撤廃」や、「EV(電気自動車)の購入を義務付ける補助金の撤廃」などを定めています。
電気自動車などの購入より、ガソリン車をもっと買え、といわんばかりです。
他にも、第14153号「アラスカの並外れた資源ポテンシャルの解放」では、アラスカ州に埋蔵される天然ガスなどの資源が驚異的なものであるとし、同州の液化天然ガス(LNG)開発を優先し、米国の他の地域や太平洋地域内の同盟国に販売する、としています。
また、第14156号「国家エネルギー緊急事態宣言」では、原油や天然ガス、ウランなどの生産や輸送が不十分であるとし、ガソリンやガスなどのエネルギー価格の高騰を前政権が招いたものだとして、現在アメリカは非常事態であると位置づけ、その開発を積極的に行うことを各省庁に求めています。
●地球温暖化には消極的な大統領。特に風力発電に批判的
トランプ大統領の発言は過激なことで常に話題にされますが、その一貫した主張は、
・気候変動の原因は、化石エネルギーの大量使用による温室効果ガス排出ではない
・アメリカが産出する石油、天然ガスなどによる化石燃料産業への積極的な後押し
・エネルギー産業に大きく関わる、アメリカの製造業の復活
ということです。脱炭素化は非合理であり、石油・天然ガスなどのアメリカが豊富に産出する化石エネルギーこそがより使われるべきとの主張がそこにはあるようです。
特に風力発電事業に関しては批判的で、風力発電タービンが「景観を害し、高コストで生態系にとっても有害だ」という主張を繰り返しています。大統領令とともに就任初日に発令された覚書「外洋大陸棚における洋上風力発電リースからの一時的な撤退と、連邦政府の風力発電プロジェクトに対するリースや許可慣行の見直し」では、洋上風力発電所の建設には不可欠な、海上の政府所有地をこれ以上は貸さない、と宣言しました。
また、風力発電の許認可プロセスも見直され、導入拡大は大きく抑制されます。
大規模な洋上風力発電プロジェクトを進めてきた企業にとっては大打撃といえ、アメリカの風力発電建設では撤退が相次いでいます。
●日本への影響は?
トランプ大統領の政策は、「化石エネルギー使用の廃止と、再生可能エネルギーへの移行」という、全世界が取り組んできた脱炭素化への道のりを否定しかねないものです。しかし、その影響は我が国にとっても大きなものといえます。たとえば、アラスカのLNGは世界的に見ると比較的高コストですが、アメリカとの貿易で高い関税をかけられる代償と思えば、購入するメリットがある、という発想に傾くかもしれません。さらに風力発電などの再エネ産業が全世界的に退潮傾向になれば、建設コストが高騰し、日本も開発に及び腰になるかもしれません。
毎日、くるくると主張が変わり、今は全世界がアメリカの大統領に振り回されている様相です。これは落ち着くのでしょうか。いったいどこに着地点があるのか。慎重に見極めながら、この様変わりしていく大国とエネルギーでの付き合いを続けていく必要があるでしょう。