お役立ちコラム

キニナル・コトバ 第10回「2024年問題」


 世の中では「~年問題」という言葉を数多く見かけます。中でも、一番代表的だったのは「2000年問題」でしょう。当時のコンピュータが、内部で西暦を下2桁、たとえば1954年なら54だけで表示しており、2000年になると00年に戻るので、1900年と勘違いしてしまい、プログラムに大きな問題が発生するという問題です。これはあらゆるインフラと関係していたため、停電が起きたり水道が止まったり、最悪の場合は大陸間弾道ミサイルが誤発射されてしまうのではないか、という危機までささやかれました。
 2000年問題は、幸いなことに、というか全世界的なプログラムの修正が大規模に行われたことにより、未然に防がれました。ただし、大きく社会を揺るがせたことは事実です。
 最近では、「2024年問題」という言葉がよく聞かれます。いったい何なのでしょうか。

■「2024年問題」とは
 2024年問題とは、2024年4月からモノを輸送するドライバーの労働時間が残業960時間までに制限される問題です。この上限によって十分な輸送ができなくなるため、荷物が予定通り届けられなくなって、物流に大混乱が起きる、と予想されるのです。
 2024年問題の発端は、2019年にさかのぼります。2019年4月に働き方改革の一環として、労働基準法が改正。時間外労働の上限が規定されました。
 これは、残業時間の上限を、原則として月45時間、年360時間に制限するというものです。労使間で協定を結んで、より長く働くことを労働者側が認めたとしても、上限は年間720時間に制限されます(この協定については労働基準法第36条で規定されているので「三六協定」と呼ばれます)。

 ただし、残業が多いとされる特定の職種については、改正法の施行後5年間の猶予が認められました。
 自動車運転業務もその一つ。その5年間の猶予の期限が、2024年4月なのです。自動車運転業務は、トラックドライバーに限ったものではありません。タクシーもバスの運転手も含まれます。
 ただし、最も問題視されているのが、物流を担うトラックドライバーです。
 施行後の残業時間の上限にも特例があって、三六協定を結んだ場合は、自動車運転業務のみ、年960時間まで認められます。しかも、月平均で80時間であって、1ヶ月の上限には決まりがありません。忙しい月には、残業が100時間を超えても認められます。
(時間外労働の上限規制が猶予された職種には、他にも建設事業、医師、鹿児島県・沖縄県における砂糖製造業、新技術・新商品開発等の研究開発業務があります。)

■年960時間ではとても足りない残業時間
 
「平均月80時間あったら、それで十分だろう」と思われる方もいるかもしれません。しかし、十分ではないのです。
 ドライバーの法定労働時間が、1日8時間、週5日働くので40時間として、1年を52週で換算すると、年2,080時間になります。これに、960時間の残業時間を加えれば、3,040時間となります。
 しかし現状では、ドライバーの年間拘束時間が3,300時間を超える運送業者は、全業者の21.7%、3,516時間の業者は4.3%にもなります。(「自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果(概要)令和3年度調査」厚生労働省労働基準局監督課)
 ほぼ2割の業者が、制限される残業時間より1割多く働いているのです。4%の業者は15%もの残業超過を行っています。
 
 このまま、2024年を迎えると、相当量の荷物が届かなくなる計算です。
 また、上限以上に働いていたドライバーについては、2024年4月から労働時間が減ってしまうため、売上が減り、給料も減ってしまうことになります。
 賃金が減ってしまったら、ドライバーを辞める人も増える可能性があります。
 届ける荷物が減る上に、ドライバーまで減ってしまうと、運送業界は危機的な状況を迎えます。
 これが2024年問題の実態です。

■「2024年問題」の解消法

 2024年問題は、流通という、日本の産業の背骨を揺るがす事態で、さまざまな他の産業にも影響を及ぼすと考えられます。
 現状でも、荷物の再配達回数の多さによるドライバーの労働量の増加、賃金の低さ、労働条件の悪さによる離職率の高さは大きな問題となっています。
 今後は、ドライバーの給与や福利厚生の改善を始め、業界自体の効率化の推進などが必要とされます。特に、最近過剰なほど増加している通販物品の運送と、受取人不在による数度にわたる再配達の問題などは、「置き配」や「宅配ボックス」などの増加で対策が講じられていますが、まだ十分とは言えません。
 日本のサービスのきめ細かさは、世界に誇れるものです。しかしサービス過剰に傾きすぎ、業務崩壊に陥るケースも多々見られます。
 業界だけでなく、受け入れ側である我々の考え方も、よりシンプルなサービスを受け入れるよう、変えていく段階に来ていると思われます。