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【電力コラム】LNG(液化天然ガス)の争奪戦が激化している!

■天然ガスとは何?

 日本の電力を作るエネルギーの中で、一番多いのは何でしょう? 答えは天然ガスです。次いで石炭が多く、石油は少ししか使っていません。
 ところが天然ガスの価格が、ここのところ非常に高くなっています。各国が天然ガスに注目し、壮絶な争奪戦が行われているのです。どうしたのでしょうか。
 天然ガスは、地下から採掘できるガスの総称です。火山のガスも一応含まれますが、一般的には可燃性でエネルギーにできるものを指します。石油や石炭と同じ化石エネルギーで、メタンを主成分にエタンやプロパンを含み、加工されて、都市ガスやプロパンガスの原料となります。
 欧米などでは、天然ガスは採掘された気体のまま、パイプラインを通じて各国に送られます。日本は海に囲まれた島国であるため、-162度以下に冷やして液状にした「LNG(液化天然ガス)」として船で輸入されます。液状にすると、体積が600分の1になり大量に運べるからです。
 天然ガスは、2020年の日本の電源のうち37.7%と、2位の石炭(30.4%)を抑え、堂々の1位を保っています。
 
■LNGはクリーンで地政学的にも安全

 天然ガスが1位なのには理由があります。重要なのは、石炭・石油などの他の化石エネルギーと比べ、温室効果ガスの排出が少ない点です。二酸化炭素の排出量は石炭と比べて57%。硫黄酸化物は0、窒素酸化物も20~37%と低く、煤じんなども多くありません。日本は2050年に向けカーボン・ニュートラルを宣言し、温室効果ガス削減を目指しているので、好適な燃料なのです。EUの執行機関であるヨーロッパ委員会でも、2022年2月に条件つきながら「原子力と並んで天然ガスは脱炭素化に適合したグリーンな資源だ」としました。
 第2の理由は、地政学リスクの低さです。天然ガスはほぼ100%輸入ですが、全世界で豊富に産出されるため、輸入元はオーストラリアや東南アジア、カタールなどのアラブ諸国、ロシア、アフリカと多様です。今回のウクライナ紛争のように、1国で戦争が起きて輸入停止にされても、極端には困りません。アラブ諸国からの輸入に偏りがちな石油に比べて、大きなメリットです。採掘可能年限は50年程度と、石油並みです。天然ガスの火力発電所は、発電量の調整が行いやすいのもよい点です。
 天然ガスは使いやすいため、日本は世界に先がけて目をつけ、世界有数の輸入国となっています。輸入するだけではなく、輸入元の各国がLNG基地を建設するのに多額の投資を行うなど、インフラ整備にも積極的です。

■天然ガスの人気沸騰

 ところが最近、脱炭素化が各国の課題となり、天然ガスの人気が高まってきました。特に目立つのは中国と韓国です。中国のLNG輸入は、2021年に8,140万トンと、7,500万トンの日本を抜き、世界一に躍り出ました。3位は韓国で4,640万トンです。この3ヶ国で、世界の輸入量の50%以上を占めています。
 ここで、2021年の苦い記憶が頭をよぎります。
 2021年初めは東アジア全体に厳寒が訪れ、電力需要が上昇し、アジア各国の輸入が急増しました。そこへ世界のLNGプラントで事故が相次ぎ発生。しかもコロナ検査のため、輸送船がパナマ運河で渋滞して輸入が止まり、LNG不足が深刻化したのです。電力価格は急騰し、大規模停電の手前までいきました。
 LNGは気化するため、長期保存に向きません。日本の備蓄分は数週間しかありません。しかもLNGは独特の長期契約が主流で、急場しのぎで短期のスポット契約をしようにも、入手には時間がかかります。スポット価格は、ここのところ急上昇しています。
 天然ガスの東アジアのスポット(短期購入)価格であるJKMは、100万Btuあたり2020年春には1.5ドル程度でした(Btuは1ポンドの水を1度F上昇させる熱量。252カロリー程度)。しかし2021年1月には寒波の影響で需要が急増、32.5ドルに上昇。一度は落ち着いたものの10月には50ドルまで上がり、その後20~30ドル台を行き来。2022年3月のウクライナ危機によるロシアのパイプライン供給停止の懸念により80ドルの最高値を更新。その後も20~40ドル台の高値が続いています。
 日本は長期契約でLNGを買っていたため、スポット価格の影響はそこまで受けません。それでも購入価格は2020年春の5ドル台から2021年には10ドル近くに。2022年5月には15ドル台後半まで上がっています。

■世界がLNGの争奪戦を始めた

 2022年2月のウクライナ紛争勃発で、LNG争奪戦にさらなる影響が出始めました。ヨーロッパは大量の天然ガスをロシアからのパイプラインで供給していました。しかし紛争で、ガスの脱ロシア化が加速。アメリカのメキシコ湾岸で生産される天然ガスに手を伸ばしたのです。もともと、メキシコ湾岸の天然ガスは東アジアの顧客が多く、世界的な争奪戦の様相を呈しています。
 ウクライナ紛争は長期化するとの懸念が強く、収まった後も、ヨーロッパ各国の脱ロシア・パイプラインの傾向は続くと思われます。
 2022年には、ついにヨーロッパのLNG輸入量が、中国・日本を超えてしまいました。
 また、日本のLNG輸入の9%を占めるロシア・サハリン州の「サハリン2」もロシアが国有化を宣言し、日本の締め出しをほのめかしています。すぐに停止とはならないでしょうが、実際に停止となった場合、日本は大きな痛手を受けます。
 経済産業省の予測では、今後、脱炭素などの進展による投資の減少で、世界のLNG供給余力は低下。一方でヨーロッパではロシア・パイプラインの供給減少で、LNG輸入を拡大する見通しです。このままいくと2025年には、世界の供給余力は1ヶ月あたり760万トン不足すると見ています。なんと、日本の1ヶ月分の輸入量とほぼ同じ分です(ロシア・パイプラインの供給がゼロになった場合)。
 では、今後日本のLNG調達はどうすればよいのでしょうか。日本政府では、オーストラリアやマレーシア、アメリカなどの産ガス国に天然ガスの安定供給をはかるよう、働きかけを行うとしています。また、カタールなどの中東主要生産国にも増産をはかる意図です。
 中国などのLNGプレイヤーの増加とウクライナ紛争でのヨーロッパの参戦と、LNG争奪戦はますます激化の一途をたどると見られます。官民を挙げた対処策の実行が重要だと思われます。

 さらにまた、LNGの価格高騰と争奪戦は、世界に予想以上の影響を与えることとなりました。
 LNG不足で困っているのは、日本やヨーロッパだけではなかったのです。バングラデシュやパキスタンといった途上国も、LNGを必要としていますが、先進国のような資金やルートを持ちません。そのため、LNGの供給不足から発電ができなくなり、電力不足で大規模な停電などが起きているのです。
 今、まさに天然ガスの不足は世界的な問題となっています。どのような解決があるのか、世界が模索しています。