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【電力コラム】アフリカの電力事情(1)


 弊社が出版している書籍『電力のキホンの本』第1版、第2版には、「海外の動向」という、外国の電力事情をまとめた人気コーナーがあります。ヨーロッパや北米、アジア中心に27ヶ国の状況をまとめたものですが、アフリカと中南米、アラブ諸国は登場していません。
 そこで今回は、主にアフリカ各国の電力事情を見てみたいと思います。

■南アフリカは、アフリカ全体で経済規模は3位

 アフリカでは、ここしばらく、経済成長が著しい「BRICS(新興5ヶ国。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)」のひとつでG20にも参加している南アフリカ共和国が有名です。しかし、GDP比較で見るとアフリカでは3位。
名目GDPで見るアフリカ諸国は、ナイジェリアがトップで31位、次いでエジプトが32位、南アフリカが38位。アルジェリアが56位、モロッコが60位、アンゴラが61位、エチオピアが62位、ケニアが68位、タンザニアが76位、ガーナが80位と続きます。
アジアではタイが30位、ミャンマーが86位ですので、アフリカの主要国はほぼタイとミャンマーの間に入ると考えてよいでしょう。

■深刻な電力不足に直面

 アフリカの電力は、恒常的に不足しています。2012年の段階では、アフリカ全54ヶ国の中で25ヶ国がエネルギー危機にあるとされました。
 アフリカでは、サハラ砂漠より北の北アフリカと、以南の「サブ・サハラ」とでは豊かさに差があり、北の方が豊かです。サブ・サハラでは2030年になっても、人口の半分は電力供給が受けられないまま、という予測もあります。
 電力不足は深刻で、年平均56日間の停電が発生しています。前述の南アフリカ共和国も深刻な電力不足に悩み、アフリカ随一の先進工業国でありながら、経済成長が鈍くなっているといわれます。
 そんなアフリカですが、各国の状況はどうなのでしょうか。

■ナイジェリア

 ギニア湾に面したナイジェリアは人口2億1,140万人(2022年)で世界7位、名目GDPは2020年で4,294億ドルでアフリカ最大。「アフリカの巨人」と呼ばれる国家です。500の種族・部族が住む多民族国家で、軍政の時代もありましたが現在では民主主義で大統領が選挙で選ばれています。
 ナイジェリアは、BRICSの次に経済発展すると期待される国々、MINTの1国として期待されています。石油・天然ガスの世界的な産出国で、石油は世界12位です。
 ナイジェリアの電源構成は、天然ガスが78%で水力が21%(2019年)。
 電化率は2016年段階で、40%(都市65%、農村28%)と低いものです。しかし2020年までに75%(都市90%、農村60%)へ拡大する目標を立てています。
 送電線は、農村部までは十分行きわたっていません。アフリカ共通の悩みですが、そうしたオフグリッド世帯のために、政府は自宅でできる太陽光発電の「ソーラーホームシステム」を500万件供給していくと発言しました。
 水力発電は、2017年に中国企業と契約し、完成すれば同国最大となるマンビラ水力発電所を建設することになっています。
 電気事業は、NEPA(ナイジェリア電力庁)の独占でしたが、2004年に株式会社化され、PHCNとなりました。民営化は2005年から段階的に進められ、発送電分離も進み、2022年現在では発電会社6社、配電会社11社です。
 アフリカ共通ですが、汚職などが多い国で、発電所建設もなかなか進まず、多くの課題も抱えています。
 なお、ナイジェリアは2060年までにカーボン・ニュートラルを達成する目標です。

■南アフリカ共和国

 アフリカ大陸最南端にある国で、人口は5,751万人(2022年)と世界26位です。しかし、名目GDPは4,051億ドルで世界38位と人口の多いナイジェリアなどに比べても遜色ありません。アフリカでもっとも工業化が進んでいる国として知られ、アフリカ大陸では唯一、G20に参加しています。また、発展著しい新興国として、BRICSの一角を担います。
 ただ、国内の治安は世界最悪レベルで、殺人事件が多発し、交差点で赤信号で停車するだけで襲われるといった問題も起きています。
 農業が盛んで、トウモロコシ、サトウキビ、マカデミアナッツで有名。また、ワイン作りも盛んで日本にも多く輸入されています。工業は製鉄や化学、自動車産業などがあり、日本の自動車会社も南アフリカに工場を置き、アフリカへの輸出拠点としています。
 電源構成は、石炭89%、原子力5%、太陽光1%、太陽熱1%、風力3%(2019年)。総発電容量は2018年で52GWで、国営の電力会社Eskomが全体の90%を占めています。石炭は埋蔵量が多く、産出量の70%が国内用で、うち70%が発電用に使われています。
 電力構成では、石炭火力を徐々に廃止しつつ、風力や太陽光などの再エネを増やし、石炭の比率を2030年までに発電容量ベースで42.6%まで削減する予定にしています。
 また、アフリカ唯一の原子力発電所を持ち、建設にも前向きで、2030年には発電量の23%を原子力で担う予定でした。しかし増設計画は建設コストの高さなどを理由に、2018年に中止。ただ2022年現在では、小型モジュール炉導入でコストを抑えながら拡大する方針となっています。
 前述したように、発電能力の不足から停電が頻発。経済発展が阻害され、緊急事態宣言を検討するほどのレベルになっています。政府では、11.8GWの新規の電力プロジェクトを立ち上げると発言しています。
 なお、国営電力会社のEskomはたびたび電気料金の値上げを申請するものの、規制機関の反対が強く、慢性的で巨額の赤字を抱えています。南アフリカ経済最大のリスクとされているため、政府では2019年に発送配電の分離など、再建案を発表しました。
 南アフリカの電力問題は、輪番停電が今も国内で続くなど課題が多く、今後も注視されるところだと思われます。
 なお、南アフリカ共和国は2050年にカーボンニュートラルを目指すとしました。