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【電力コラム】南米の電力事情(1)


 弊社が出版している書籍『電力のキホンの本』第1版、第2版には、「海外の動向」という、外国の電力事情をまとめた人気コーナーがあります。ヨーロッパや北米、アジア中心に27ヶ国の状況をまとめたものですが、アフリカと南米、アラブ諸国は登場していません。
 そこで今回は、南米各国の電力事情を見てみたいと思います。

■南米の電力事情

 南米諸国は、経済発展がいちじるしいブラジルを筆頭に、アルゼンチン、チリ、パラグアイ、ウルグアイ、エクアドル、ボリビア、コロンビア、ペルー、ベネズエラなどの国からなります。西部には南北にアンデス山脈が走り、東南部にはアマゾン川が流れる広大な熱帯雨林「アマゾン」で有名です。
 貧富の差が大きく、高層ビルや高級リゾート地がある一方で、貧民が暮らすスラムが数多く存在。治安の悪さでも知られています。
 電力事情は、都市部では90%以上の普及率をマークしていますが、農村部の普及が遅れており、ペルーのように30%以下という国も見られます。大規模な停電も頻繁に起きています。発電の電源に関しては、アマゾン川など豊富な水量を持つ川や、アンデス山脈の高低差を利用して水力発電が発達しており、ブラジルのように60%を超える国もあり、2019年には全電力の53%を占めました。世界最大の水力発電所ベスト10のうち、4ヶ所が南米にあります。
 送配電では電力ロスが多いことでも有名で、都市部では盗電なども多く、電力設備の浸透はまだまだと考えてよいでしょう。

■ブラジル:アマゾン川の豊富な水量で水力発電が盛ん。原子力も

 ブラジルは、南米大陸の北東部にあり、面積は851万㎞2と日本の約22.5倍。人口も日本の2倍近い2億1,531万人を有します。ポルトガルの植民地であったため、公用語はポルトガル語ですが、1822年にブラジル帝国として独立。1967年に現在のブラジル連邦共和国となりました。国土は、北部を西から東へと流れる広大なアマゾン川とその南に広がるブラジル高原が特徴的です。アマゾン川の流域は世界最大の熱帯雨林「アマゾン」が覆っています。
 ブラジルの電源構成は、2019年で水力発電が多くを占め、64%。次いで天然ガスが10%、風力とバイオ・廃棄物がそれぞれ9%、石炭と原子力が3%、石油2%、太陽光が1%です。水力発電量は中国、カナダに次いで世界3位で、パラグアイとの国境を流れるパラナ川にかかる世界2位のイタイプ・ダム(発電容量では現在世界1位)、アマゾンの熱帯雨林にある世界4位のトゥクルイダムなどがあります。ダムに関しては、再エネ発電の増強に伴い、今後も利用される予定ですが、渇水の時などは電力不足になり、またアマゾン川流域などでの開発は適地が少なくなったため、供給比率は下げていく予定です。
 ブラジルは、原子力発電も行っており、リオデジャネイロ州にアングラ原子力発電所があります。まだ開発途上ですが、国内には多くのウランが埋蔵されていると見込まれています。建設計画は、2011年の福島第一原発事故に一度は中断されましたが、2030年までに4~8基建設する計画です。
 電力全体としては、2030年までに現在の発電能力186GWを236GWまで伸ばし、水力は49%に比率を下げ、風力や自家発電(太陽光)などの比率を上げるとしています。
 ブラジルの電力事業は、国営電力持ち株会社エレトロブラスが発送配電を独占していました。しかし多額の負債を抱えていることもあり、配電会社6社を売却。欧州の巨大エネルギー企業などが落札しています。
 なお、ブラジルは2021年の気候サミットで、当時のボルソナロ大統領が2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを達成すると宣言しています。

■アルゼンチン:

 南米大陸の南部に位置するアルゼンチンは、国土面積が278万㎞2と南米ではブラジルに次いで大きく、日本の約7.5倍です。人口は4,586万人(2021年)とさほど多くはなく、国民の多くはイタリア、スペインなどヨーロッパ系のメスチソなどがほとんどを占めます。
 アルゼンチン、チリ、パラグアイなどを含む南米の南の一帯は「コノスル」と呼ばれ、アルゼンチンの首都ブエノス・アイレスを代表として、教育水準も高く独特の文化を持つ一帯となっています。元はスペインの植民地でしたが、1810年に独立を宣言。その後、軍事政権の時代もありましたが、現在では議会制民主主義の国となっています。
 なお、経済では2000年以降、幾度となく危機に陥り、2020年にも新型コロナの影響で債務不履行を起こすなど不安定な状態にあります。経済の悪化で、国民の50%近くが貧困層とされています。地方では電化率が30%の時代もありましたが、現在は100%。ただ、都市人口率が92%以上とほとんどの国民が都市で生活しています。

 アルゼンチンの電源構成は2019年で天然ガスが65%。次いで水力が20%で原子力が6%、風力4%、石炭、太陽光、バイオマスが各1%です。
 アルゼンチンは、中東などに比べて目立ちませんが、石油・天然ガスの産出国であり、国内にパイプライン網が張り巡らされ、また周辺国に向けて輸出も行っています。さらに、シェールガスの採掘可能量はアメリカに次いで世界2位ともなっています。一方でチリなどからの輸入も行っていましたが、シェールガスの開発などにより、国内生産が増えたこともあって、輸出増となりました。
 電源構成では多くが天然ガスですが、それはこうした理由によります。近年では増産が積極的に計画され、パイプラインの増強も進められそうです。
 また、1971年から原子力発電所が稼働しており、現在3ヶ所で発電が行われています。
 電力産業は発電会社が123社あり、自家発電を行っている会社が25社存在します。送電部門は超高圧送電会社が1社、地域送電会社が6社。また、配電会社は28社あり、イタリアのエネル社の子会社のエディスールや地元のパンパ・エネルギア社の子会社エデノール、エデラップ社などが中心です。
 再エネに関しては、大豆やサトウキビの生産国であることからバイオ燃料に力を入れています。バイオ燃料法により、国内で販売されるガソリンにはエタノール、軽油には大豆由来のバイオ燃料の混合が義務化されています。
 なお、アルゼンチンはカーボンニュートラルの宣言はしていません。