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【電力コラム】第7次エネルギー基本計画とは? そして日本の2040年の電源構成は?

 2025年2月、最新の第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました。
「エネルギー基本計画」とは、国が定める今後のエネルギー政策の基本方針です。3~4年ごとに改正され、前回の第6次が2021年10月でしたので、今回は4年ぶりの改正となります。
 日本は2050年までに、有害な温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボン・ニュートラル」の達成を目標としています。また、その途上である2030年に、温室効果ガス排出を20219年に比べ46%削減するという目標を立てています。達成には、かなりの努力を要する目標です。
 この基本計画が、前回と比べて大きく変わり、話題となりました。
 どのように変わったのか、見ていきましょう。

●2021年の第6次エネルギー基本計画で決められたこと

 前回の第6次エネルギー基本計画で、電力に直接深く関係する内容は以下となります。
(1)2050年のカーボン・ニュートラル(二酸化炭素などの有害な温室効果ガスの排出を実質上ゼロにすること)の実現に向けた課題と対応
(2)2050年を見据えた2030年に向けた政策対応

このうち、(1)について電力部門では、
・再エネや原子力などの脱炭素電源を活用して脱炭素化を進める
・水素やアンモニアによる発電や、CCUS(二酸化炭素貯留・利用・回収技術)などのカーボンリサイクル技術を活用して、火力発電のイノベーション(技術革新)を図る
 などが盛り込まれました。
 また(2)については、
・再エネの主力電源化を図り、最大限に導入する
・原子力は安全を最優先しながら、原子力規制委員会の新規制基準に適合すると認められた場合、再稼働を進める
・安定供給を大前提に火力発電の比率をできるだけ引き下げる
・水素やアンモニアを新たな資源とし、社会実装を進める
・住宅・建築の省エネ性能を引き上げるなど、国民自身の省エネへの取り組みも重要
 などが盛り込まれました。
 そして、2030年の電源構成では、
・再エネ 22~24%(当時18%)
・原子力 20~22%(当時6%)
・LNG(液化天然ガス) 27%(当時37%)
・石炭 26%(当時32%)
・石油 3%(当時7%)
 が目標とされたのです。

●第7次エネルギー基本計画では

 では、第7次エネルギー基本計画では、どうなったのでしょうか。
 まず、変わったのは電力の今後の需要です。これまでは電力需要は下がるとの見込みでしたが、今回は、DX(デジタル・エクスチェンジ)などの進展により電力増加が見込まれるとしました。その中で、エネルギー安定供給と脱炭素を両立することを重視しました。 しかも「再エネか原子力か」という対立で見るのではなく、「脱炭素電源」として最大限活用すべき、としています。
 また、脱炭素化に伴うコスト上昇を最大限抑制すべき、としました。

 最も変化があったのは、原子力です。原子力はこれまでは、依存度を低減するという目標が掲げられていました。しかし第7次計画では、原子力も「脱炭素電源」として、重要視されているのです。「再稼働の加速に向け官民を挙げて取り組む」という言葉が入れられ、次世代炉についての開発にも取り組む、という言葉が加えられました。
 一方で、世界各国で脱炭素化に向けた動きが加速する今、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の緊迫化などの地政学的リスクが高まっている現状を受け、エネルギー安全保障の重要性が高まっているともしています。

 第7次エネルギー基本計画の勘所は、原子力の重視と、不安定さが増し高騰が続くエネルギーの確保の重視。さらにやはり原材料などの高騰で苦境が続く再エネのコスト削減を目標としたところでしょう。

●各パート別に見ると

 もう少し詳しく見ていくと、再生可能エネルギーについては、主力電源化を徹底するとし、普及拡大を図るとしています。具体的には、次のようなことが語られています。
・FIP制度や入札制度の活用
・地域間連系線(いわゆる送電線網)の整備・蓄電池の導入
・ペロブスカイト太陽電池、浮体式洋上風力、地熱発電の導入拡大
・適切な廃棄・リサイクルが実施される制度整備

 原子力は、前述の通り、前回と一番大きく論調が変わりました。
 原子力については、
・安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく。
 という従来の文言に加え、
・再稼働の加速に向け官民を挙げて取り組む。
・次世代革新炉(革新軽水炉・小型軽水炉・高速炉・高温ガス炉・フュージョンエネルギー)の研究開発を進めるとともに、サプライチェーン・人材の維持強化に努める。
 などの言葉が現れています。

 火力については、
・再エネなど出力変動しやすい電力を補う調整力として重要
とし、
・安定供給に必要な発電容量を維持・確保しつつ、非効率な石炭火力を中心に発電量を減らし、水素・アンモニア、CCUSを活用した火力の脱炭素化を図る
 としました。
 さらに、電源の安定供給確保と再エネを最大限の活用のため、タイムリーな電力供給を可能とする地域間連系線、地内基幹系統等の増強を図るとしています。
 

●2040年度における電源構成は 

 そして、今回のエネルギー基本計画では、初めて2040年度の電源構成の見通しが発表されました。
 これによると、2023年度に比べ、2040年度については、
・エネルギー自給率が15.2%から30~40%に進展。
・発電電力量は2023年度の9854億kWhから、1.1~1.2兆kWh程度に増加。
・電源構成については、2040年度は以下のような目標を掲げています。
 再エネ 4~5割程度(現状22.9%)
 (内訳 太陽光 23~29%(現状9.8%)
     風力  4~8%(現状1.1%)
     水力  8~10%(現状7.6%)
     地熱  1~2%(現状0.3%)
     バイオマス 5~6%(現状4.1%))
 原子力 2割程度(現状8.5%)
 火力  3~4割程度(現状68.6%)
 となっています。再エネを現状の倍に増やし、火力を現在の70%弱から、一気に3~4割程度まで引き下げるという、強気の目標は変わっていません。
 
●実現できるのか、第7次エネルギー基本計画

 エネルギー基本計画は、電力業界のみならず、産業全体にも大きな方向性を与えるものです。第7次の今回も、達成に向けて官民が一致して努力を継続すると思われます。
 しかし、その達成については、電力需要の増加、再エネの導入率の鈍化や材料コストの上昇、化石資源の高騰など、前回にも増して大きな壁が立ちはだかっています。
 日本だけではありません。世界的にも今、脱炭素の達成は困難を極めています。脱炭素化の最大の敵は戦争などによる資源の浪費だと思われます。世界が安定し、エネルギー基本計画のいう安定的なエネルギー供給と節約が絵空事に終わらないことを願ってやみません。