【電力コラム】FITとFIP制度の現在
作成日:2025.03.03 更新日:2025.03.03 公開日:2025.03.03

●FIT制度とは
太陽光や風力などの再生可能エネルギーで発電した電力を、電力会社が市場価格より高い一定の価格で購入する「固定価格買取制度」、通称「FIT制度」。再エネ発電の普及のために、事実上2009年度からスタートした制度です。当初は1kWhあたり40円以上という高値が設定され、発電した全量が買い取り。そのため非常に高い人気を集め、再エネで作った電力を売る発電者が飛躍的に増加しました。皆さんのご家庭でも屋根に太陽光パネルを設置して発電し、余った電力を電力会社に買い取ってもらった、という方もいるかもしれません。
ただ、FIT制度では、いつも同じ価格で電力会社が電気の買い取ってくれるため、発電事業者の経営努力がおろそかになったり、買取費用が高額になりすぎるデメリットがあります。
そこで、2022年から新たに導入されたのが「FIP(フィード・イン・プレミアム)制度」です。いったいどんな制度なのでしょうか。
●FIP制度とは
FIP制度では、電力の市場価格に合わせて販売価格が変わります。その販売価格に、一定の「プレミアム」という補助金を上乗せする形で販売されます。
従来のFIT制度では、いつ売っても、売買料金は1kWhあたりいくらと決められた固定額でした。しかし、FIPでは、これが「市場価格+プレミアム」という形に変わります。その時の市場価格が12円でプレミアムが5円なら、12+5円で17円で売られます。それが市場価格の変動によって刻々と変わるという仕組みです。
FIPでは、電力を市場(日本卸電力取引所)で売買してもよく、小売電気事業者との相対取引で売買してもかまいません。
また、全量を販売する必要はありません。必要な分だけ、売ることができます。全量買い取りが原則だった、FIT制度とはここが異なります。
●FIP制度の料金計算方法
もう少し詳しく見ていきましょう。
FIT制度では、電力会社が再エネ電気を買い取る場合の単価が一定でした。これを「調達価格」といいます。
FIP制度では、この調達価格にあたるものを「基準価格」とします。基準価格は当面、FITの調達価格と同水準にすることになっています。
そして、発電事業者が市場取引により期待できる収入を「参照価格」とします。参照価格は市場価格に連動し、1か月ごとに見直されます。
要するに、基準価格が買取価格、参照価格が発電事業者の必要経費、のように考えればよいでしょう。
発電事業者が受け取る補助金「プレミアム」は、この基準価格から参照価格を引いたものとなります。
プレミアムも、市場価格の変動により、毎月更新されます。
●参照価格の考え方
では、参照価格について詳しく見ていきましょう。
参照価格は、以下の(1)~(3)を足したものです。
(1)日本卸電力取引所(JEPX)の価格に連動された価格
(2)非化石価値取引市場の「非化石価値」の価格に連動して算定された価格
(3)バランシングコスト
(1)は、日本卸電力取引所(JEPX)で取引される電力の価格です。
(2)再エネで作る電力は、電力の価格に加えて、非化石エネルギーで電力を作る価値「非化石価値」を持っています。「非化石価値」は、非化石価値取引市場で証書として取引されています。その収益です。
(3)FIP制度では、発電事業者は発電する見込み量「計画値」を事前に提出する必要があります。計画値は実際に発電した量「実績値」と合わせる必要があります。
これを「バランシング」と言いますが、計画値と実績値で差(インバランス)が出た場合は、差額を支払わなければいけません。これを「インバランス料金」といいます。
FIT制度では、インバランス料金は免除されていました。
FIP制度では、発電事業者はインバランス料金を支払う必要があります。ただ、インバランス料金を支払うのは大変です。そこでFIP制度ではプレミアムの一部として「バランシング・コスト」が支給されます。バランシング・コストは年々漸減していく予定です。
●発電容量が低い事業者ではFIT制度が継続
こうしたFIP制度ですが、発電事業すべてに適用されるわけではありません。太陽光発電なら50kWh~1000kWhはFITとFIPの選択制、1000kWh以上はすべてFIPの適用を受けることになります。50kWh以下は、これまで通りFIT制度の適用を受けます。
FIP制度では、発電事業者はより効率化やコストの削減などの努力を払い、再エネ発電を事業として成り立たせていく必要があります。また、我々一般の需要者にとっては、増大する再エネ発電促進賦課金の負担を抑えられる効果があります。
2024年1月に発表された資源エネルギー庁の調査(6071件回答)では、現状でFITからFIPへの移行を考えている事業者は全体の26%。考えていないと答えた事業者は57%に上ります。また、事業環境が整備されれば検討すると回答した事業者が全体の15%ありました。
その課題としては、FIPで要求されている発電量の計画値提出に関して、発電量予測が難しいこと、予測誤差への対応が困難なこと、発電計画を作る人員・コストが足りないことなどが挙げられています。バランシングの問題が大きいようです。
今後のFIPの普及については、この点をまず解決する専門のアグリゲーターなどの登場が望まれるでしょう。FIP制度は、発電事業がより補助に頼らない、事業としての自立をテーマに掲げています。
FIPがより普及していくよう、事業制度の整備がより望まれるでしょう。