【電力コラム】日本の電気の大動脈「系統」の増強と「コネクト&マネージ」
作成日:2025.03.04 更新日:2025.03.04 公開日:2025.03.04

電力の世界には「系統」という独特の言葉があります。電力を発電所から需要家の手もとまで送り届けるための発電・送電・変電・配電などの設備全体のことです。「送電網」や「配電網」ともいい、送配電ネットワークをイメージすればいいでしょう。
この「系統」の増強が、電力業界にとって重要な課題となっています。
今回はそれを見ていきましょう。
●系統をめぐる課題
東日本大震災の時に露わになりましたが、日本の系統(送配電ネットワーク)には、さまざまな課題や制約があります。
ひとつの制約は、北海道や東日本、西日本など各エリアによって、系統が分離しがちなこと。エリア間での接続に限りがあり、北海道で発電した電力がスムーズに本州まで送られるかというと、そうはいきません。
日本では、首都圏などの都市部で電力消費が多いですが、発電所は遠方の海岸地域などに離れて立地しています。発電所からの送電が十分スムーズにはいきません。また、今後増えるであろう再エネ発電、特に風力発電所に関しては、北海道や本州北方の日本海側の海岸部に多く、大電力消費地に送るには、系統が不足しています。
また、系統接続自体にも制約があって、ルール改正や改善が行われてきました。
系統制約の改善で代表的なのが、「日本版コネクト&マネージ」です。
●日本版コネクト&マネージの3つの方法
「コネクト(接続して)&マネージ(管理する)」とは、イギリスなどで行われてきた手法です。
系統の制約には以下のようなものがありました。
・系統の容量の半分以上は、災害時などの緊急送電のために空けておく(N-1基準)。
・系統接続は、発電事業者の先着順に契約される。
・契約容量は「定格出力」、つまり発電できる最大限で設定される。
このような制限があり、またこれまでの系統は、旧来の火力・原子力発電所の契約が多くを占めてきました。新規参入の再エネ発電所は系統の空きがなく、契約ができなかったのです。
そこで政府では、系統制約の解消のためにルール改正、「日本版コネクト&マネージ」を実施しました。これにより、系統の設備増強を行わなくても最大限効率的に送電が行え、再エネ電力の活用に道が開かれます。日本版コネクト&マネージには、以下の3つの方法があります。
(1)想定潮流の合理化
(2)N-1電制
(3)ノンファーム型接続
(1)は、送電される容量をより現実的なものに見直し、送電線の空きを作る、というもので、2018年から全国で運用されています。従来は、すべての発電者が発電できる最大限(定格出力)で契約していました。しかしピーク時間や通常の発電量を考慮して、より効率的に送配電の空きを埋めるというものです。
(2)は、N-1基準の見直しです。送電線の多くは、1回線が故障しても残りの1回線で送電できるよう、2回線以上を持っています。これを「N-1基準」といいます。「N-1電制」は、予備のために空けられていた残り1回線を使うというものです。ただし、緊急時には即時遮断するという条件付きです。2022年7月から本格運用されています。
(3)は、送電するのに必要な容量が確保されている系統接続を「ファーム型接続」といいます。「ノンファーム型接続」は、接続する容量を決めずに、その時のファーム型接続分の容量を見て、空きがあれば再エネ電源などの接続を行うものです。従来は、送電容量が超過すると思われる場合は、接続が許可されませんでした。
ノンファーム型接続では、送電線が混んだ時に出力制御が行われます。ノンファーム型は、2021年1月から全国的に運用されています。
●「再給電方式」の運用開始
2022年12月からは、これらに加え「再給電方式」も系統接続の方法として運用を開始しました。従来は、先に契約した電源が優先的に容量を確保できる「先着優先」方式でした。しかし現在は「メリットオーダー」方式になり、混雑が発生した場合は、燃料費などの運転コストが高い調整電源から順に出力制御されることになります。
再エネなどの新規電源の接続は、原則制限されません。再給電方式は、系統の運用を行う一般送配電事業者が行います。2022年12月からは、まず調整電源(一般送配電事業者が調整力契約をしている電源)が再給電方式となり、さらに2023年12月からは、調整電源以外も一定の順序で出力制限する方式となりました。
●系統の増強は
これまでは、系統を効率よく運用する方策について述べてきました。それでは、系統そのものの増強、つまり送電ネットワークを太くし、より多くの電力を運ぶ方法はどうなのでしょうか。
政府では2023年3月に、2050年度のカーボンニュートラルを見据えたマスタープランを策定。その具体策を示しました。
それは総投資額6~7兆円の計画です。まず北海道~東北~東京のルートを2.5~3.4兆円かけて新設。プラス600万~800万kWの電力を送れるようにします。現在の北本連系設備が90万kWですから、大幅な増強となります。
同時に北海道地内では1.1兆円の増強、東北は6500億円、東京地内は6700億円をかけて増強。将来的に風力発電などが増えて大発電地帯となる北海道からスムーズに電力を首都圏まで運ぶ案です。
また、東日本と西日本の間を結ぶFC(周波数変換所)については4000~4300億円をかけ、270万kW分の増強を行います。ご存じの通り、東日本は50Hz、西日本は60Hzと電気の周波数が違います。東西で行き来するためにはFCで一度交流電力を直流に変換し、再び交流に戻す手続きが必要です。現在、FCでは計210万kWの変換が行われていますが、計画では倍以上にする予定です。他にも、九州から中国への連系には4200億円をかけて280万kWの増強、九州から四国への連系線も4800~5400億円かけて新設するなどの予定が立てられています。
さらに、北海道と本州については、海底にケーブルを敷設した海底直流送電も計画されています。こうして、各エリアを隔てる壁をなくし、電力を融通する仕組みが計画されています。再エネを活用した将来の電力には欠かせない系統増強。計画の実現を期待して見守りたいものです。