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【電力コラム】変わる「FIT制度」と「再生可能エネルギー政策」


■変化の時を迎える「FIT制度」と再生可能エネルギー政策

 太陽光発電など再生可能エネルギーの全量買い取りと補助金を定めた「固定価格買取制度(FIT制度)」。
 この制度を含め、再生可能エネルギーをめぐる政策が今、大きく変わろうとしています。
 FIT特措法が施行された2012年に、2020年度末までに抜本的な見直しを行う旨が規定されました。今年はその見直しの年度となっているのです。FIT制度の見直しで、再生可能エネルギー政策はどう変わっていくのでしょうか。今回は、それを見ていきたいと思います。

 FIT制度は、固定価格買取制度といい、2012年7月より施行されました。太陽光や風力をはじめ、水力、地熱、バイオマスの再生可能エネルギーを利用して発電された電力を、一定の価格で電気事業者が買い取る制度です。買取価格は、火力発電などの電気の価格よりも高めに設定されて優遇されました。10kW以下の太陽光などは10年、地熱などは20年と時間を区切った時限的な措置でした。
 買取費用は、需要者の支払う電気料金にFIT賦課金という形で上乗せされます。
 FIT制度の目的は、こうした優遇措置をとることによる、再生可能エネルギーの普及拡大と、それに合わせたコストダウンです。
 2012年7月の施行以来、8年が経過したFIT制度の見直しには、どんな意義があるのでしょうか。

■FIT制度の功罪

 FIT制度の施行は、再生可能エネルギーの導入に大きな影響を与えました。
 全発電量中の再エネの比率は2012年度の約10%から、2018年度で17%まで向上しています。導入量でも世界6位となりました。
 比率増大の立役者は、参入障壁が低く、設置時間の短い「太陽光発電」でした。FIT認定を受けた発電量の実に80%を占めます。日本の再生可能エネルギーの比率増大は、FITの後押しを受けた太陽光発電が担ったといえます。

 ただその一方で、一般の需要者が「FIT賦課金」として負担した買取費用も大きく増えました。2019年度の再生可能エネルギーによる発電の買取費用総額は3.6兆円に及び、そのうちの2.4兆円がFIT賦課金として、一般需要者の負担になっています。しかも、料金負担の実に7割が、事業用太陽光発電に支払われています。

 FIT法の改正で2017年度からは入札制が導入され、発電コストは低下しました。しかし導入初期の2012~14年に認定を受けた太陽光発電事業は、1kWhあたりの買取価格が40円~32円と高額でした。これらの初期の買取費用は、これまでの太陽光発電の買取費用のうち、約6割を占めるまでになっています。
 こうした太陽光発電の偏重は、需要者である国民への負担の増大や、高い買取価格のままで契約をしながら発電を行わない「未稼働案件」の増加などの問題を引き起こしています。

 また、他の風力発電や地熱発電などは、導入時間(リードタイム)の長さや導入費用の高さなどから、必ずしも十分な導入がなされているとはいえません。
 さらに、発電しても、電力が必要な地域に届けられないという電力系統(送電線などの電力システム)の制約も問題となってきています。
 そのような意味でも、電力システムの改革も含めた制度の抜本的な改革が必要とされてきました。

■「パリ協定」以降の世界の情勢は

 一方、世界では、再生可能エネルギーの導入が加速しています。
 2015年に定められた「パリ協定」に基づく、温室効果ガス削減の動きはヨーロッパを中心に活発です。たとえば英国では2025年に2酸化炭素を多く発生させる石炭火力を廃止。ドイツでも2038年には廃止を行う予定であるなど、積極的な取り組みが行われています。
 パリ協定は日本も批准しており、2013年比で26%の温室効果ガス削減を目標として掲げました。
 そんな中で、温室効果ガス排出の少ない再生可能エネルギーによる発電は、目標達成の柱として考えられています。日本では、2030年度には、再生可能エネルギーによる発電比率を、現在の17%から22~24%に増やすことが目標となっています。今後の再生可能エネルギーは、主力電源としての役割が求められているのです。

■再生可能エネルギー政策の変革

 ではこうした流れの中、FIT制度を含む再生可能エネルギー政策はどう変わろうというのでしょうか。
 今後、政府は、
・再生可能エネルギーの主力電源化(コストダウンとFIT制度からの自立)
・再エネの大量導入を支える次世代ネットワークの構築
 を目指すとしています。

 そして、こうした目標を達成するために、
・FIT制度に加え、市場連動型のFIP制度の導入。FIT特措法を「再エネ促進法」に改正
・需給一体型モデル(発電と電力使用を一体化する)の活用
・小規模の発電事業者をとりまとめて運用するアグリゲーターの育成
 さらに、
・大規模な風力発電の導入(再エネ海域利用法で8か所を有望な区域として選定)
 などが計画されています。
 では、これらの政策はどういったものなのでしょうか。そのあらましを見ていきましょう。

■再エネ政策の変革1:市場連動型のFIP制度の導入

 現状では、再生可能エネルギー発電における補助金制度はFIT制度ですが、それに加え、市場連動型の「FIP制度」を導入する予定です。それに伴い、FIT特措法もFIP制度を含め、「再エネ促進法」に改正されます。

 FIP制度とは、再生可能エネルギーへの補助金額を一定とし、売電価格に上乗せするという補助金制度です。
 FIT制度は一定の価格で電気の買取りを行うため、発電者の収入は常に同じ。需要ピーク時に売電を行うメリットはありません。
 一方で「FIP制度」は、補助額が常に一定で、電気の市場価格に足して補助が行われるます。そのため電気がより必要な需要ピーク時には価格が高く、逆に不要な時間帯には電力価格が安くなるなど、買取価格を市場と連動させられます。
 よって蓄電池などとの併用で、発電者が需要ピーク時に売電を行うモチベーションを持たせられる、などのメリットがあります。需要のひっ迫時に、より売電量が向上する効果があるのです。
 FIP制度はヨーロッパなどで採用されている手法で、FITのような固定価格買取制でなく、市場連動型の支援制度へ移行することにより、電力市場を活性化できると見込まれています。

■再エネ政策の変革2:「需給一体型」モデルの育成

 太陽光発電を増やす方策のひとつとして、一般住宅や工場などで「需給一体型」モデルの増加を促すことが考えられています。
 「需給一体型」モデルというのは、たとえば太陽光発電パネルを屋根に設置し、エネルギー効率などを上げ、自分で発電した電気を自分で使う住宅・施設のこと。発電所や電力会社を介さない、独立した電力使用が実現されます。いわゆる「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」などを指します。
 現在、大手ハウスメーカーなどでは、新規住宅建設の5割にZEHが導入されていますが、中小建売住宅販売会社などでは1割に満たないため、積極的な導入をはかるとしています。
 また、こうした需給一体型モデルの進展のために、蓄電池の一層の普及をはかるとしています。

■再エネ政策の変革3:「アグリゲーター」の育成

 アグリゲーターとは、小規模の発電施設を束ねて、供給を行う事業者です。アグリゲーターが小規模発電事業者を集めて、一括して電気の売買を行うことにより、単独でやるよりもより効率的なビジネスが行え、小規模の発電者がさらに普及拡大します。そうしたアグリゲーターを育成させることを目指しています。

■再エネ政策の変革4:大規模な「洋上風力発電」の導入

 今後の再エネ発電の主力化のための、切り札となるのが大規模な洋上風力発電設備の建設です。
 日本では、FIT制度の実施以降、太陽光発電の導入が進みました。現在の日本の再エネ発電の主体は太陽光発電ですが、イギリスをはじめとした欧米各国では、海の上に風車を設置して発電を行う、洋上風力発電が主流の国が多くあります。

 大規模な洋上風力発電は、海外では電力の落札価格が10円/kWhを切るケースがあるなど、コスト削減に効果があります。また、発電設備の部品点数が1~2万点と多く、建設費用が数千億円規模にもなることから、関連産業の発展と新しい雇用の創出も望めます。

 日本では2019年4月に施行された再エネ海域利用法により、長崎県・北海道・青森県・秋田県など、一定の準備が進んでいる区域10ヶ所、有望な区域4ヶ所などを公表。長崎県では事業者の公募も開始されています。
 日本はヨーロッパと違い、遠浅の海が少なく、ノウハウの蓄積も少ないなど課題はありますが、ポスト化石燃料の発電設備として、今後大きな期待が持たれます。
 今後は、2030年までに毎年100万kW、2040年度までには3000万~4500万kwを目標とするとしています。

■再エネ政策の変革5:再エネの主力化を支える「送電ネットワークの整備」

 現在の送電設備では、送電容量は全電源がフル稼働した前提で決められ、火力はいくら、太陽光はいくら、風力はいくらというように、枠が固定されていました。
 また送電容量のうち、半分程度を「空き」として、緊急時用に確保していました。
 しかし、現行の固定された枠のままでは、再生可能エネルギーの発電量が上昇しても、容量が少なくて送電できない、というデメリットがあります。
 そこで、現在の枠を現実の使用容量に近くなるよう、配分を変えることが考えられています。緊急時用に確保している空き容量についても、緊急時の即時遮断装置を設置することで、枠を開放することが考えられています。

 また、現在の再エネの送電ルールでは、混雑時には制御することを前提にしているため、混雑時には火力などの電力が優先されるなどのデメリットがありました。そこで、送電ルールを見直し、より再エネにメリットある形でのルールの再形成が行われる予定です。

■再生可能エネルギー政策の今後は

 2030年度までに、電力の世界では「再エネ」をキーワードに大きな変革が行われようとしています。
 2020年は「脱炭素化」の世界的な流れにより、旧式の石炭火力発電所の休廃止が行われることが決定。また、石炭に変わる電源としても、東日本大震災での福島第一原子力発電所の事故の影響から、世論の上でも原子力発電所の再稼働は非常に困難です。
 日本の電力の未来は、否が応でも、再生可能エネルギーに頼らざるを得ない状況が現れてきているのです。

 特に、大規模な洋上風力発電の建設や、自給自足型の「需給一体型」モデルなどは、我が国の再生可能エネルギー発電の姿を変えていくようなインパクトを持っています。見直しの大筋が決まる2020年末まで、今後も再生可能エネルギー政策の動向には目を離せない状況が続くでしょう。