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【電力コラム】日本の石炭火力発電所がなくなる!?

■日本の石炭火力発電所の8割が廃止に!

 電力業界に、また大きな影響を与えると思われる政策が発表されました。
 梶山経済産業相(当時)が、2020年7月3日に、2酸化炭素を多く排出する旧式の低効率な石炭火力発電所を、2030年度にかけて段階的に休廃止させると発表したのです。
 低効率の石炭火力発電所は、国内の石炭火力発電所140基のうち、亜臨界圧方式と、超臨界圧方式(SC)の114基と8割に及びます。そのうち、約9割が休廃止の対象になると見られています。
 ただし、効率が良く2酸化炭素の排出量が少ない「超々臨界圧方式(USC)」の石炭火力発電所は残す方針とされています。

■石炭火力は、2酸化炭素の排出量が多い

 現在、世界では欧米を中心として、石炭火力を廃止する「脱石炭化」が進行しています。石炭火力廃止を含む「脱炭素化」は、2015年の「パリ協定」でも定められた世界的な地球温暖化防止・環境保全の目標。日本も、2030年までに2013年に比較して、2酸化炭素排出量を30%削減するという目標を立てています。
 中でも大量の2酸化炭素を排出する石炭火力発電所は、イギリスでは2025年に実質廃止、ドイツでも2038年に全廃する目標が立てられています。そして対策の遅れにより各国から批判を浴びていた日本でも、対応が始まったというところです。

 石炭火力は、風力などの再生可能エネルギーに比べ、2酸化炭素の排出量が数十倍と非常に多く、地球温暖化に大きな影響を与えていることが問題視されています。
 国際的な批判も大きく、石炭火力発電所の建設や運営については、特に環境活動に敏感な海外の投資家や金融機関が融資を拒否するケースもあるなど、環境だけにとどまらない問題も現れてきました。
 そこで、経済産業省では休廃止決定に踏み切ったと考えられます。
 
 しかし、現状では日本の発電における電源構成は、LNG(液化天然ガス)が36%、次いで石炭が27.8%。実に4分の1以上が石炭火力に依存しています(2019年速報)。残りの電源構成は、原子力が6.5%、石油が2.6%、その他火力が8.7%の比率。再生可能エネルギーについては、水力が7.4%、太陽光が7.4%、バイオマスが2.7%、風力が0.8%と18.5%を占めるにとどまります。
 石炭火力は、コストが安く、原子力発電所の多くが停止中の現在では、日本の発電の主軸を担っているといえるのです。
 その石炭火力の多くを廃止するという決定は、今後の電力業界にどのような影響を与えるのでしょうか。

■廃止には不安も!

 今後のエネルギー構成としては、2030年度には石炭を26%に削減。LNGを27%に、石油を3%に削減するなど、化石燃料の大幅削減が目標とされています。さらに代替エネルギーとしては、再生可能エネルギーの比率を22~24%に増やすことをはじめ、原子力を現行の6.5%から20~22%程度に上げて対応することが目標になっています。
 ただし、太陽光発電や風力発電を中心とする再生可能エネルギーには、日照や強風の程度によって発電量が左右されるなどの不安定さがあります。そこで、発電量が減少した場合のバックアップ電源として石炭火力発電所が必要だという声も根強く残っています。
 また原子力発電所は、東日本大震災での福島第一原発の事故などを受け、再稼働には慎重な世論も強くあります。炉自体の老朽化も進むことから、22%まで増加することが現実的に可能か、など疑問視する意見もあります。
 
■北海道、北陸、沖縄エリアなど石炭に頼るエリアには配慮も

 また、各エリアの電力会社によっても石炭火力の休廃止に対する影響には温度差があります。
 たとえば、発電量全体における石炭火力発電所の比率は、東京エリアが約12%、原発の比率が高い関西エリアが0%。それに対し、北海道エリアは約40%、東北・北陸・中国エリアは約25%前後、沖縄エリアは55%に達するなど高い比率となっています。
 廃止予定となる稼働年数の長い石炭火力発電所に頼る地域も残っており、電力業界からは2030年度の休廃止は困難だとの意見も聞かれます。
 政府では、今後の制度設計において、沖縄エリアなど石炭火力の比率が高い地域には、一定の配慮を検討するなどの考えもあるようです。一方で脱炭素化の目標の達成には、効力ある廃止案が必要でもあり、今後の対応には注目が集まります。

 政府では、2030年度までに電力会社ごとに段階的に発電量の削減を求める予定で、2020年の年内に具体策を決める予定です。石炭火力の休廃止は、今後もいくつかのハードルが予想されます。削減に伴う状況によっては、発電コストの増大と電気料金の上昇にも影響すると見られ、今後の動向には注意が必要です。