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【電力コラム】急ピッチで進む洋上風力発電開発

■再生可能エネルギーの真の主役は

 我が国の多くの人は、再生可能エネルギーというと、まず「太陽光発電」を思い浮かべられるでしょう。実際に日本の再生可能エネルギーの中心は太陽光発電で、各地で太陽光パネルの姿を数多く見ることができます。

 しかし世界に目を向けると、現在の再生可能エネルギーの主流は、必ずしも太陽光ではありません。伝統的な水力発電を除けば、「風力発電」といえるのです。
 特に最近は、海の上に発電機を設ける「洋上風力発電」の建設が各国で積極的に進められています。
 日本でも2019年に「再エネ海域利用法」が制定され、洋上風力発電所の建設に期待が集まっています。洋上風力発電は、なぜ注目を集めているのでしょうか。

■世界で高まる風力発電の需要

 世界的にみると、風力発電の設置容量(2017年時点)は、1位が中国で約188GW、2位がアメリカで89GW、3位がドイツで56GW。以下、インド、スペイン、イギリスと続きます。
 数字的にみると、1位・2位が突出して見えますが、注目すべきなのは全電力に対する風力の比率です。デンマークでは、2019年に風力が全電力の47%を供給。イギリスでも同じく20%と、風力が再生可能エネルギーの中で最大の発電量となっています。他に、スペインも20%近く、ドイツでも25%が風力発電です。
 イギリスやドイツ、デンマークでは、北海エリアに強風が吹く遠浅の海が続き、洋上風力発電には適した場所が多いことも一因ですが、風力発電の発展はそれだけの理由ではありません。

■風力発電のメリットとデメリット

 風力発電のメリットは、次のようなものがあります。
・温室効果ガスの発生量が低い。石炭火力の数十分の1。
・大規模に設置すると、コストが低くなる。LNG火力や原子力発電並みのコストダウンが期待できる。
・工期が短い。大規模な発電所でも1~2年間で建てられる場合が多い。
・発電機の建て増しが簡単なため、設備の増強などが比較的容易。
・太陽光発電と違い、夜間でも発電できる。

 逆にデメリットは、
・設置する場所の風の強さや吹く時間(風況)によって、発電量が左右される。
・騒音や低周波被害を与える場合もある。
・巨大なため、付近の景観を変えてしまう。
・鳥がブレード(羽根)にぶつかるバードストライクが発生するなど、生態系・環境破壊を起こす危険がある。
・台風・地震などで破損する恐れがある。
 などがあります。

 中でも最近は、特に「大規模化しやすく、コストが安い」点が注目を集めています。大規模な風力発電所が建設されたイギリスでは、1kWの発電コストが10円を切り、化石燃料に劣らないケースも現れました。
 最近では風車のブレード(羽根)の巨大化が進み、1枚の長さが200mと大型航空機並みの大きさのものも建設されています。今後さらに大規模化や風車の巨大化が進み、コストダウンが図られると見られます。
 脱化石燃料、脱炭素化が目標とされる昨今において、再生可能エネルギーはもとより、今後の発電全体の主力になるかという勢いです。

●洋上風力発電のメリットとデメリット

 特に、海の上に風車を建設する「洋上風力発電」は期待されています。洋上風力発電には、海底に土台を設ける「着床式」とブイのように海に浮かべる「浮体式」があります。現在、世界で主流になっているのは「着床式」です。
 洋上風力発電のメリットは、
・地上に比べ、強い風が安定的に吹くので、大きな電力供給が得られやすい。
・設備を大型化しやすい。
・部品点数が1~2万点と多く、事業規模も数千億円規模となるため、地域経済をうるおす効果が大きい。
・船での資材運搬になるため、大型の設備が障害が少なく運搬できる。
・海上にあるので、騒音被害や事故が起きた時の被害が少なくて済む。
・地上と違い、景観に影響を与えにくい。
 などがあります。

 逆にデメリットとしては、
・水上に設置し、強風にさらされるため、陸上より建設強度が必要でコストがかかる。
・日本には遠浅の海が少なく、海底に設置する土台が作りにくい。そのため、新技術の浮体式発電機などの建設を進める必要がある。
・漁業などの水産資源への影響を考慮する必要がある。
・設備建設のために、近くに建設・メンテナンス用の港湾設備が必要になる。

■日本の状況

 日本は、もともと海岸線が長く、排他的経済水域も広いため、洋上風力発電向きの地勢を持っています。
 ただし、固定式の風車を設置するのに適した、水深50m未満の浅い海が少なく、発電機の建設はコスト高になると考えられてきました。
 また、近辺の漁業従事者など、利害関係者との調整もあり、これまで陸上の風力発電に比べ、施工例はほとんどありませんでした。

■最近、なぜ風力発電が脚光を浴びているのか

 しかし、最近では、状況が大きく動いています。
 我が国は、パリ協定で目標として2030年までに、再生可能エネルギーの比率を、22~24%程度に増やすことを目標としています。
 再生可能エネルギーの比率は、現状の2017年で全電力の17%程度ですから、22%の目標値は、比率としては多くないと見られるかもしれません。
 しかし、同じく2030年度に20~22%を負担する予定だった原子力発電所の再起動は、世論の反対もあって難しい状況になっています。また、同じく26%を負担する予定だった石炭火力については、2020年7月に梶山経済産業省が、旧式の発電所のうち約110基を休廃止することに決めました。石炭火力は温室効果ガスを大量に排出することから、世界的な「脱炭素化」の流れに反すると、ヨーロッパなどからの批判が大きかったのですが、それに応じた形です。

 現在、政府は、再生可能エネルギーの主力電源化を強く進めていますが、絵に描いた餅ではなく、現実問題としてそうせざるを得ない時期が来ているのかもしれません。
 中でも、洋上風力発電は「主力電源化の切り札」として位置づけられており、2030年度までに発電容量を1000万kWに増やす予定です。2021年度からは、年間3~4件の事業認定を10年間継続する方針です。

■「再エネ海域利用法」とは

 洋上風力発電を推進する方針に合わせ、2019年4月には、「再エネ海域利用法」が施行されました。
 この法律は、洋上風力発電を導入しやすくするため、海域の占用に関する統一的なルールを定め、漁業関係者など先行利用者との調整の枠組みを決めるために成立したものです。
 この法律にもとづき、政府では、洋上風力発電の「促進区域」を定め、適切な事業者の選定と計画の認定を行うことになっています。さらに認定された計画にもとづいて、指定された区域は、事業者が最大30年間の占用を許可されます。
 2019年4月に施行されたこの法律にもとづき、2020年7月段階で、現在日本国内の10ヶ所が促進地域に定められています。
・北海道岩宇及び南後志地区沖
・北海道檜山沖
・青森県沖日本海(北側)
・青森県沖日本海(南側)
・青森県陸奥湾
・秋田県八峰町及び能代市沖
・秋田県潟上市及び秋田市沖
・山形県遊佐町沖
・新潟県村上市及び胎内市沖
・長崎県西海市江島沖

 さらに政府では、今後10年で促進区域を30ヶ所まで増やす予定です。

■急ピッチで進む洋上風力発電所の建設計画

 促進地域の選定に合わせ、民間資本での洋上風力発電所の計画も、急ピッチで進んでいます。
 住友商事や東京電力リニューアブルパワーなど8社は29日、秋田県沖で洋上風力発電所の建設を目指す共同事業体を設立しています。48万kWの発電所で、2026年の運転開始を目標とします。
 また、インフラックスは北海道石狩湾沖で133万kWの洋上風力発電所の計画を立てています。
 他にも北陸電力と中部電力などは、福井県あわら市沖で、20万kWの発電所の建設計画を発表。大阪ガスも、佐賀県沖に20万kWの洋上風力発電所を計画中との発表を行いました。
 その他にも、
・グリーンパワー石狩 10万kW 北海道石狩湾沖
・コスモエコパワー 100万kW 北海道石狩湾沖
・北海道電力やグリーンパワーインベストメント 30~50万kW 北海道檜山沖
・コスモエコパワー 100万kW 北海道檜山沖
・Jパワー 72万kW 北海道檜山沖
 などの計画が並んでいます。各電力会社が、一斉に計画を立案しているという状況です。

■経済効果は10兆円以上。ただ、事業進展には課題も

 こうして計画が進む洋上風力発電ですが、今後の建設には課題も多く残されています。
 日本の近海は浅瀬が少なく、ブイのような浮体式の風力発電が主力となると見られますが、まだ世界的にも施工実績が少なく、実験段階であること。
 また、日本近海は台風などの影響を大きく受けるため、イギリスのような風の安定した場所より、風車の建設にはより強度が必要とされること。そのために、ヨーロッパのものよりコスト高になること。
 さらに、風力発電所が完成しても、送電線(系統)容量が十分ではなく、送電設備を十分に確保できるか、などの問題が横たわっています。

 経済効果は10兆円とも15兆円ともいわれる洋上風力発電の建設。先行するイギリスではすでに1000万kW(10GW=原発10基分)の発電容量を達成すると見られます。課題はあるものの、今後の電力業界にとって、未来を左右するプロジェクト群であることは間違いありません。