お役立ちコラム

キニナル・コトバ 第7回「グローバル・サウス」


 最近、よくこの言葉が登場してきます。特に、ニュースなどを見ている人には、インドのモディ首相の顔と一緒に覚えている場合も多いのではないでしょうか。また、ある程度の年齢の人は、「第三世界(サード・ワールド)」「途上国」のことかな、なんて思ったりもするでしょう。では、「グローバル・サウス」というのはいったい何でしょうか。

■「グローバル・サウス」とは
 グローバル・サウスとは、アジア(特に東南アジア)やアフリカ、オセアニア、中南米の新興国や途上国を示す言葉です。といっても、これこれの国というはっきりとした定義はありません。
 たとえば、トルコなどはグローバル・サウスの中でも存在感ある国として考えられていますが、同時にEUの準加盟国でもあります。そういった意味で微妙な位置の国もあります。裕福な産油国やイスラム国家が並ぶ西アジアの国々も、グローバル・サウスに含めるかは人によってまちまちだと思われます。

 グローバル・サウスは、一般的には、アメリカと旧ソ連が争っていた冷戦時代の「第三世界」と呼ばれていた国を指します。
 以前は、北半球に集まる先進国群が「グローバル・ノース」と呼ばれ、それに対する言葉として「グローバル・サウス」が使われていました。
「サウス(南)」という言葉が使われていますが、東南アジアやインド、中米や北アフリカなど、北半球の国々も含まれます。一方で、ロシアや中国は含まれません。
 グローバル・サウスは、近年、インドやインドネシア、ブラジル、南アフリカなどを代表に、経済発展が目覚ましく、先進国を追い越すような存在に育ってきています。

■「第三世界」から生まれた「グローバル・サウス」

 ソ連が崩壊するまでの冷戦時代は、自由主義世界に属するアメリカや西ヨーロッパ諸国、日本が「西側」、ソ連や中国、東ヨーロッパ諸国などの共産・社会主義国家が「東側」とされ、お互いに争っていました。そこで、アジアやアフリカの新興国は、東西の冷戦に巻き込まれることを嫌い、どちらでもない「第三の勢力」として、国際社会で発言権を得ることを目指しました。それらの各国を「第三世界(サード・ワールド)」と呼んだのです。
 ただし、現在では旧ソ連が崩壊、東側諸国が次々と社会主義を捨てて自由経済化したため、東西対立がなくなりました。そこで、東西とは別の「第三」という言葉も意味をなさなくなったのです。

■発展を続ける「グローバル・サウス」

 こうして、新たに日の目を見ることになった「グローバル・サウス」。その意味合いは、かつてとはかなり違ってきています。前述したように、東南アジアや南米などを中心に、経済発展を続ける国が増えたからです。
 グローバル・サウスを代表するインドは、2022年にGDPでイギリスを抜いて世界5位に躍進。人口でも世界1位となりました。東南アジアには、他にもシンガポールやベトナム、インドネシア、マレーシアのように先進国並みのハイレベルな国家を目指すところも多くあります。ブラジルやアルゼンチン、南アフリカやエジプトなど、南米やアフリカ諸国の発展も見逃せません。
 グローバル・サウスの国々は、平均年齢が若く、人口増が続き、人口ボーナスが受けやすいメリットがあります。今後も、発展を続けていくことでしょう。以前より、グローバル化が言われていますが、「途上国」とくくられていた国々が、これほどまでに先進国に接近してきた時代があったでしょうか。
 高齢化が進み、経済的にも老成した先進国がふと振り返れば、真後ろに若く元気なグローバル・サウスの国々が見えていた、というような感じです。

■ウクライナ侵攻などで注目を浴びる

 「グローバル・サウス」がひんぱんに使われだしたのは、実はごく最近。経済力をタテに強権的な姿勢をとる中国や、強引なウクライナ侵攻を行うロシアに対し、欧米や日本は対抗姿勢を明らかにしています。その中で、中立的な態度をとりがちなグローバル・サウスの国々の取り込みが重要になってきているからです。
 たとえばインドは、歴史的にロシアと仲が良く、経済制裁が続く現在でも同国から石油を大量に輸入しています。中国は国境紛争があり、仲の悪いことで知られます。
 アメリカ・日本・オーストラリアの3ヶ国はこのインドとQUADと呼ばれる首脳会合を行いました。「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、中国の地政学的な進展を抑えるため、経済・その他の分野で協力を行おうという目的です。
 また、ウクライナ侵攻では、中立の立場をとるインドの協力を得ようと、各国がアプローチを続けています。インドの首相、モディ氏の態度は必ずしも明らかではなく、ロシアと欧米・日本をてんびんにかけているような風もあります。それほどまでに、存在感が強くなっているということでしょうか。
 今後も発展を続けるグローバル・サウスの国々。日本も、ただ衰退を嘆くだけではなく、彼らを見習う若さを持つことも大切なのではないでしょうか。