お役立ちコラム

キニナル・コトバ 第6回「全固体電池」


 先日、トヨタ自動車が10分の充電で1200㎞走れる「全固体電池」を搭載した電気自動車(EV)を、2027年から販売すると表明して大きなニュースとなりました。
 現在は急速充電で5分で40㎞ほどですから、大きな進歩です。
 この「全固体電池」って、どのようなものなのでしょう。

■「全固体電池」とは
 
「全固体電池」を説明する前に、まず、電池について説明しましょう。
 電池とは、エネルギーを電気に変換する装置です。太陽電池などもありますが、中でも中心になっているのは、化学反応で電気を起こす「化学電池」。
我々が家庭で使う単三電池や単四電池は、ほぼこの化学電池です。マンガンや鉛、リチウムといった物質の化学反応で電気を起こします。
 その化学電池にも、いくつかの種類があります。一次電池と二次電池、燃料電池などです。
 まず、電気を1回きりしか発生できないのが、一次電池です。これはおなじみの乾電池で、アルカリ電池やマンガン電池などが含まれます。

 一方、二次電池は電気を発生できますが、発生と逆方向に電流を流すことで、「充電」を行うことができます。
「蓄電池」と呼ばれるのがこれで、自動車のバッテリーに昔から使われている鉛蓄電池や、電気自動車の動力源として現在主流のリチウムイオン電池、充電式乾電池に使われるニッケル・カドミウム電池、ニッケル・水素電池などが有名です。
 また、「燃料電池」は、水素などを電池内に流して空気と反応させ、電気を発生させる装置です。水素燃料電池が幅広く知られ、水素を燃料にして走る自動車「水素燃料電池車」が実用化されています。

 今回、紹介する「全固体電池」はこの中でも、二次電池(蓄電池)にあたるものです。
 全固体電池は、実は特に新しい素材を使ったものではありません。基本的には、二次電池のところで紹介した、リチウムイオン電池の一種です。
 ただし、これまでの電池と違うのは、電解質に「液体」ではなく、「固体」を使うことです。
 昔の、小学校でやった電池の実験を思い出してみましょう。
希硫酸の水溶液の中に、亜鉛版(マイナス極)と銅板(プラス極)を入れると、亜鉛イオンが液の中に溶け出し、残った電子が亜鉛版から銅板の方へ移動します。
銅板上では、液の中の水素イオンが移動してきた電子にくっつき、水素が発生します。これが電気の発生です。
 電解質には、この希硫酸の水溶液のように、液体が使われていました。乾電池などは「乾く」という言葉が入っていますが、固体ではなく、布などに液体の電解質をしみ込ませたものです。
 しかし、液体の電解質では、液漏れや発火、液の蒸発や分解などが起きてしまいます。また、電池の内容物が液体であるために、どうしても電池の形が制限されてしまいます。電池の容器を、液体が入る形にしなければならないからです。
 そこで、開発が待たれていたのが、電解質を固体にした電池「全固体電池」です。
 
■「全固体電池」のメリット

 電解質が固体である「全固体電池」では、電解質が漏れる心配がないので、形を薄くしたり、変形させることができるようになります。また、発火の危険が少なく、安全です。
 さらに耐熱性の高い材料を使えば、エネルギー密度の高い電極を使うことができるため、
 ・容量を大きくできる
 ・出力を高くできる
 ・充電が早くできる
 ・寿命を長くできる
 ・低コストで作れる
 ・温度変化に強く、高熱になっても発火しにくい
 など、非常に多くのメリットがあります。
 しかし固体は、液体と違って、イオンの伝導性がどうしても低くなります。また、使用していると電池の劣化が早く、寿命がそこで、長い間、実用的で大型の全固体電池は開発が難しいとされていました。
 ところが最近、脱炭素化の進展のもと、ガソリン自動車から電気自動車への移行が目だって加速して来ました。
 そこで、各社が競って高性能な蓄電池の開発を進めています。
 中でも全固体電池は、もっとも有力といっていい次世代電池であり、特許数でも日本が他国をリードしているのです。

■日本の先端技術の光となるか

 そんな折り、トヨタ自動車が、全固体電池の2027年での実用化を発表しました。
 全固体電池EVの魅力は、航続距離と充電スピードの速さです。航続距離は、現在のEVの500㎞をはるかにしのぐ1200㎞。それを10分以内の充電でまかなえます。 
 また、これまでは充電回数が数十回~数百回しかできませんでしたが、耐久性の課題を克服し、実用化の目安となる数千回もの充電回数を実現しようとしています。
 課題としては製造コストで、現在精査中、とされていますが。従来の液体リチウムイオン電池よりはまだ高いとされています。
 未来の技術としてEVなどのカナメとなる「全固体電池」。AIなどの先端技術分野で遅れが語られがちな日本にとって、久々に明るいニュースといえるのではないでしょうか。