お役立ちコラム

キニナル・コトバ 第8回「人工光合成」


「光合成」。学校の授業で習いましたよね。
 植物や藻類が、光のエネルギーを利用して、二酸化炭素を分解して、酸素を放出し、でんぷんなどを作り出すことです。温室効果ガスとして有害な二酸化炭素を分解して、人間が生きるのに必要な酸素を作り出すので、地球環境にとても大切な反応です。「人工光合成」とは、これを人の手で装置を使って再現できないか、という取組みです。
 これが実現すれば、地球温暖化のもとになっている温室効果ガスの大部分を占める二酸化炭素を削減でき、酸素を作り出すことができます。
 人工光合成は、日本の研究が世界をリードしており、注目を浴びています。現在研究中の人工光合成のことをお話ししましょう。

■「人工光合成」とは

 植物や藻類、バクテリアなどが光合成を行う手順には、いくつかの種類があります。うち一つが酸素発生型光合成でもうひとつが酸素非発生型光合成です。他にレティナル型光合成というものもあります。
 光合成の中で一番ポピュラーなものが「酸素発生型光合成」です。この光合成は、植物や植物プランクトン、藻類が行っています。(酸素非発生型光合成は、細菌やバクテリアが行います。)
 酸素発生型光合成では、植物の場合、光を受けた葉緑体が水を分解して水素を発生させ(明反応)、その水素を利用して、取り込んだ二酸化炭素を還元して糖を作ります(暗反応)。その最初の水を分解する過程で、水素と一緒に酸素を作りますが、酸素は植物にとっては不要なので、外に排出します。
 このように光合成は、人間にとって不可欠な酸素を作り、不要な二酸化炭素を分解するので、二重に重要な働きをしているのです。

 さて、人工光合成は、植物が行う「酸素発生型光合成」をまねたものです。
 人工光合成には、いくつかのステップがあります。
(1)まず光触媒を使って、水を酸素と水素に分解します。
(2)分離膜を使って、酸素と水素が混ざった気体から、水素だけを取り出します。
(3)合成触媒を使って、水素と二酸化炭素を合成し、プラスチックの原料であるオレフィンを作ったり、航空燃料を作ります。
(1)の光触媒には、酸化チタンや窒化タンタルなどが代表的です。酸化チタンが光触媒をすることは、日本の藤嶋昭氏が1967年に発見しました。
(2)の分離膜は、非常に目の小さな網で、酸素分子が水素より大きいため、酸素は通れず水素だけ通れるようにできています。
 この3段階のステップで、光合成を行おうというものです。
 光触媒での太陽エネルギー変換効率は、植物の光合成では0.2~0.3%程度ですが、2021年には7.0%まで向上しています。

■「人工光合成」のメリットとデメリット

 人工光合成のメリットは、なんといっても化石燃料を使わずに酸素を作れ、二酸化炭素を取り込める(固定する)ことです。この方法が実用化されれば、二酸化炭素を人の手で減らすことができ、地球温暖化を防ぐことができます。また、酸素も放出するので、森林が身近にあるのと同じ効果が生まれます。
 一方で、人工光合成は、まだ効率が十分に向上しておらず、実用化は今後を待つ必要があります。
 さらに、太陽光発電では、設置はパネルだけで簡単です。しかし人工光合成では、水の管理や容器、触媒の管理など、設備と運用コストがかなりかかるという問題点もあります。

 まだ難問が横たわる人工光合成ですが、脱炭素化が急務の現在、実現に向けて政府などの投資が進んでおり、各国でも開発が進んでいます。日本の技術が世界をリードする人工光合成。さらなる進展を期待したいと思います。