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【電力コラム】それでも「温室効果ガス46%削減」は実現できるか?

■「2030年までに温室効果ガス46%削減」を発表

 2021年4月、「気候サミット」が開かれました。アメリカ合衆国のバイデン大統領の呼びかけで、世界40ヶ国の首脳が、気候変動の元となる温室効果ガスの削減目標を話し合ったものです。
 議長国アメリカは、2030年までに2005年比で二酸化炭素排出量を50~52%削減すると発表しました。カナダは同じく2030年までに2005年比で40~45%削減、EUは1990年比で55%削減、イギリスは2035年までに1990年比で78%削減と、それぞれにハイレベルな目標を掲げました。
 日本も「2030年までに2013年比で温室効果ガスの排出を46%削減し、さらに50%の高みを目指す」という目標を表明しました。パリ協定で示した26%削減に比べ、20%の上乗せです。
 そして2050年までに、アメリカやEUと同じく日本も温室効果ガスの排出を実質ゼロとする「カーボン・ニュートラル」を達成するとしました。温室効果ガス削減目標は、電力業界にも大きな影響があります。なぜなら、温室効果ガス排出量のうち、電力の割合は4割を超えるからです。

■温室効果ガス46%削減の具体的な中身は

では、具体的な温室効果ガス削減目標の中身を見てみましょう。2021年10月には「第6次エネルギー基本計画」が発表され、気候サミットでの宣言を受けた具体的な目標が示されました。
 2021年度に策定された目標では、2030年度の電力需要は、徹底した省エネを行うことにより、8,640億kWhに抑制。総発電電力量は9,340億kWh程度を見込みます。2019年の発電電力量が約9,920億kWhですので、2030年の電力需要と比べてみれば、発電電力量で約6%、電力需要で約13%の削減となります。
 電源構成としては、再生可能エネルギーが36~38%、原子力は20~22%、火力では40%程度を見込みます。火力の内訳はLNG20%程度、石炭19%程度、石油は2%です。また、水素・アンモニアの新原料で1%程度をまかなうことが期待されています。
 再生可能エネルギーについては、発電量の合計を3,130億kWhにする予定です。2019年度が約1,840億kWhでしたので、倍近くに増やす目標です。さらにもう一段の施策強化が実現した場合の野心的な数値として、3,360~3,530億kWhを目指すとしています。
 2020年度の電源構成は水力を含めた再エネの比率が19%、化石エネルギーが75%程度でした。10年で達成するこの目標のハードルがいかに高いか、実感できるかと思います。

■資源リスクの高い今こそ脱炭素への道を

 削減目標の実現のためには、まだまだ難問が横たわっています。
 再エネの比率を増すには、太陽光や風力発電のより一層の導入が必要ですが、まだ設備の建設が追いついていません。太陽光発電は地球温暖化対策推進法の改正で、手続きの簡素化を行い、大規模な設備の導入を加速させる予定です。また、新築住宅の屋根への太陽光パネルの設置促進を進める予定です。
 たとえば東京都では、新築一戸建住宅の屋根への太陽光パネル設置義務化を進めています。2025年度4月から施行する予定です。
 発電電力量1MW以上のメガソーラー(大規模太陽光発電所)も各地で建設が進んでいます。しかし、建設するために大規模な森林伐採や土地造成が行われるなどの環境問題も一部で発生しています。条例で、新たなメガソーラーの建設に制限をかける自治体も現れています。
 風力発電は、陸上では建設が進んでいますが、建設に適した土地が少なくなっています。今後期待される海の上の風車「洋上風力発電」は、日本に浅瀬の海が少ないため、設置の難しい浮体式が主流になると見られます。設置が本格化するのは2030年以降になるでしょう。
 さらに最近では、世界的な天然ガス需要の高まりによる燃料費の高騰や、危機ともいえる電力の不足など、「脱炭素」の影が薄くなるほどのエネルギー問題が山積しています。しかしこんな時代でも、脱炭素化は進めなければなりません。ウクライナ紛争を理由に、資源供給拒否をちらつかせるロシアなどを逆にバネにして、地政学リスクの少ない再エネへと大胆に舵を切る戦略が、日本には必要となのかもしれません。