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【電力コラム】新電力の事業撤退はまだ続くか!?

■新電力の事業撤退相次ぐ

2022年12月、強烈な一報が飛び込んできました。2022年11月28日の段階で、国内で登録されている小売電気事業者約706社のうち、146社もが倒産・廃業、電力事業からの撤退、もしくは新規申込の停止を決めたというのです(図1-1)。全事業者の21%近くになります。同年3月30日の調査では31社でした。9ヶ月の間に5倍に増えたことになります。
 内訳は、倒産・廃業が22社、電力販売事業からの撤退が33社。新規の契約申込を停止したのは91社にものぼりました。この数は、まだ増えると予想されます。
 こうした倒産や撤退、申込停止の原因は、電気の市場価格の高騰でビジネスモデルが破綻し、経営が立ち行かなくなったからです。新電力だけでなく、大手電力会社もほとんどが決算で最終赤字を計上し、電気料金の大幅な値上げを行っています。

■なぜこんなことが起きたのか

 理由は、ご存じのようにここしばらく続く電力調達価格の高騰です。電力自由化で参入した小売電気事業者の多くは、自分では発電所を持ちません。主に市場から電力を調達し、大手電力会社より安い料金で提供することをサービスの目玉として、利益を稼いできました。
 しかし、発電の主要な燃料となるLNG(液化天然ガス)の価格は、2020年末より高騰し続け、ウクライナ危機でさらに上昇。燃料価格は高止まりの状態を続けています。日本の電力を取り扱う日本卸電力市場(JEPX)でも、電力の取引価格は非常に高い水準で推移しています。
 また、電力供給も大幅にひっ迫。電力を市場で調達できなかった小売電気事業者は、多額の不足インバランス(電力の供給計画に比べて不足があった場合に生じる違約金)を支払う状況になり、赤字が急増したと見られます。
 こうして採算維持ができず、小規模で体力のない小売電気事業者が次々に倒産・廃業したり、事業撤退を行うことになったのです。
 新規受付の停止も、事業拡大を目指す電力企業にとっては、手痛いものです。新規受付をしたくても、採算に見合う価格での十分な供給が確保できない。しかも、従来の顧客に販売するだけでも大変です。安値で勝負しているために、市場価格が高騰してしまうと、利益を出すどころか逆ザヤ(販売価格より調達価格の方が高いこと)が発生してしまうのです。
 
■電力難民になる企業も

こうした倒産・撤退の余波を受け、「電力難民」なる言葉も現れました。「電力難民」とは、小売電気事業者の倒産や撤退によって、電力供給元がなくなった企業や団体のことです。
 電力難民になった場合、大手電力会社から臨時の「最終保障供給」を受けることになります。最終保障供給とは、やむを得ない事情で小売電気事業者を変えなければいけない場合、受け入れ先が見つかるまで一般送配電事業者が電力を供給する制度です。料金は、電力会社の契約より割高になり、期間は原則として1年です。
 電力難民となった企業については、当初、たとえ小売電力事業者が倒産しても、大手電力会社と契約を結べると考えていた面もあるといわれます。しかし、大手電力会社まで新規の契約停止を行うような状況です。新規受け入れ先を失った企業群は、長い電力放浪を続けるのを余儀なくされました。こうした企業は、10月現在で45,000社を超えたとされています。

■今後も厳しい状況は続く

 さて、今後はどうなるでしょうか。残念ながら、新電力企業が置かれた状況は厳しいと考えざるを得ません。その一つは、燃料費の高騰が今後も続くと予想されることです。電源のもっとも多くを占めるLNGは、ウクライナ紛争の影響によるヨーロッパの天然ガス不足や、中国を始めとする諸外国の争奪戦にさらされ、高止まりが続いています。また、原子力発電所などの再稼働は、まだまだ厳しい状況にあります。
 第二に、2020年から続く電力需要のひっ迫が今後も夏季・冬季を襲うと考えられることです。小規模の小売電気事業者の中には、電力不足から供給量を確保できないところも出てくるでしょう。
 政府では、2022年10月、物価高騰に対処する総合経済対策の一環として、激変緩和措置を発表。電力も対象となります。小売電気事業者に補助金を配り、電気料金の上昇を抑えようというのです。
 一般家庭向けに1kWhあたり7円、企業向けに3.5円の補助を行い、2023年1月から実施されました。
 消費者の家計支援が目的ですが、電気料金高騰による顧客離れを防ぎ、小売電気事業者に一息つかせる効果もあると考えられます。
 今後も小売電気事業者に対しては、厳しい状況が続くと考えられます。これを乗り切り、1社でも多くの事業者が利益を上げていくことを願ってやみません。