お役立ちコラム

【電力コラム】「出力制御」とは何か。その課題は


 最近、電力関係のニュースでよく聞かれるのが「出力制御」です。
 出力制御とは、発電所に発電をストップさせてもらい、電力量を調整することです。
 出力制御は、いろいろな場合に行われます。最近、特に話題なのは、太陽が照りつける夏に、太陽光発電所などの発電量が増えすぎて、電力が余るため、出力制御を行っているケースです。
 中には、出力制御を求められて、「せっかく発電しているのに、予定していた収益が出なく、赤字になる」と怒っている太陽光発電の事業者もいます。
 太陽光発電は、日本をはじめ世界が力を入れている再生可能エネルギーの雄。二酸化炭素を出さない脱炭素のエネルギーですので、大切に使いたいものです。
 ところが、その太陽光発電での電力が余るからストップを要請するなんて、どういうことなのでしょうか。

■「同時同量」

 まず、この項目でも何度も言っていますが、電力には「同時同量」という原則があります。使う量(需要量)と発電した量を常に一致させておかないと、送電の周波数が乱れて、家電などが動かなくなったり、最悪の場合は停電が起きたりします。
 また、困ったことに電力は貯めておくことができません。大型蓄電池などの整備は進められていますが、それでも保存できる電力は、ごくごく一部。需要量と供給量が一致するよう、電力会社では常に調整を行っています。
 そこで、発電量が多い時には、出力を調整するよう、発電所に協力を要請したりするのです。

■「出力制御」とは

 出力制御を行う場合は、ケースによって2通りあります。
 一つは「需給バランス制約による出力制御」。最初に説明した通り、電気が需要以上に発電されてしまう場合です。一般的には、春や秋など、暑くなく、エアコンなどの使用が少ないので需要電力は少ないのに、晴れの日が多くて発電量が増えてしまう時、しかも工場などが休む土日祝日などに、制御の可能性が高くなります。
 もう一つは、「送電容量制約による出力制御」です。送電線に送ることができる電気の量には上限がありますが、それを超えて発電が行われる場合です。たとえば、洋上風力発電などで電力が増えても、送電容量に上限がある場合は、出力制御が行われます。また、電気が余って、他エリアへ電力を融通する場合でも送電容量の上限を超えれば送れませんので、出力制御が行われることになります。

■「優先給電ルール」とは

 さて、電力が増えて節電を行わなければならない場合は、どうするのでしょう。この場合、「どの順番で発電所を制限するのか」というルールが定められています。
 それが「優先給電ルール」です。
 優先給電ルールでは、発電量が、エリアでの需要量を超えた場合は、
まず(1)LNGなど、比較的調整がしやすい火力発電の出力を抑制します。
続いて(2)揚水発電所のくみ上げ運転を行います。
 揚水発電所というのは、水を上下2か所の貯水池においた水力発電所です。電気が余っている時は下の池からポンプで水をくみ上げて上の池に貯め、電気が不足する時には、上の池から下に水を流して発電するという、蓄電池の役割をします。
 それでもなお電力が余る場合に、
(3)バイオマス発電の出力制御を行い、
その後に(4)太陽光発電や風力発電の出力制御を行います。
 原子力発電や水力発電所、地熱発電所などは、一度止めてしまうと再開に長時間かかるため、出力制御は一番最後になります。こうした電源を「長期固定電源」と呼びます。

■出力制御の方法は

 こうした順番が決まっていても、春・秋のような季節には電気が余り、太陽光発電所の出力制御が行われることになっています。太陽光発電の出力制御は、10kW以下の家庭用の太陽光パネルなどは対象外です。しかし、10kW以上の事業者は対象になってしまいます。
 今年、2023年の4月には、九州に加えて、東北・四国・中国の3エリアで出力制御が行われました。さらに、九州電力は以前から出力制御を行っていますが、太陽光発電の能力が1,000万kWを超えており(原発10基分)、発電量の5%程度の制御を行う必要があるともいわれます。

 では、出力制御はどのように行われるのでしょうか。
 出力制御が行われるのは、旧10大電力である、大手電力会社10社に売電している事業者です。
 出力制御は買取を行う各電力会社で異なります。また、売電契約を結んだ期日や、設備容量(10~50kW未満、50~500kW未満、500kW以上など)によって分かれます。
 制御方法には、オンライン出力制御とオフライン制御があります。
 オンライン出力制御は、大手電力会社からの接続指示によって、遠隔操作で出力制御が行われる方法です。
 オフライン接続制御は、接続指示によって、現地で手動で制御を行う方法です。
 また、最近ではオンライン代理制御も導入されています。この方法は、自動制御できないオフライン事業者が、オンライン制御できる事業者に代わりに出力制御を行ってもらい、大手電力会社を通じて、制御量分の代金を支払う方法です。
 九州電力などでは、出力制限が無制限・無補償の事業者に対し、一定の割合(%)で一律の制御を行っています。こうすることで、制御量全体が少なくなり、より各事業者の負担が軽くなることが期待されます。

■出力制御の今後

 今後、出力制御は、九州だけでなく、各地で行われようとしています。
 太陽光発電設備が増加しているので、仕方のないこととも思えますが、脱炭素化でより再エネ発電が増えようとする今後、よりムダのない太陽光の利用が求められます。
 対策としては、旧来の火力発電所の稼働率をより下げ、再エネの稼働率を上げることや、蓄電設備の増強などが挙げられます。また、一方のエリアから別エリアへ電力を融通できるような、系統(送電ネットワーク)の拡充が必要とされるでしょう。また、余った電気を水素などの製造に使い、エネルギーとして貯めておくことも将来的には期待されます。
 今後も続くであろう出力制御。事業者が売電で得られるはずだった収益を上げられない、などということがないよう、効率的な電力の使い方が求められます。