お役立ちコラム

キニナル・コトバ 第5回「核融合」


 今回の言葉は「核融合」。「核」という言葉を聞くと、拒否反応を示す人も多いでしょう。放射能を何万年も出し続けて環境を汚染する、被曝すると人体に悪影響を及ぼす。それに核爆弾。でも、その多くは「核分裂」、原子が崩壊する時に発生させるエネルギーに関することです。核融合とはその逆で、原子同士をぶつけて融合させる時に出すエネルギーを利用するものです。二酸化炭素を排出しないため、クリーンエネルギーとして注目を集めています。

■「核融合」とは
 
「核融合」とは、水素やヘリウムのような軽い原子の核同士が、ぶつかり合うことによって融合し、別の重い原子になることです。ぶつかる過程で膨大なエネルギーを出し、それが制御できれば発電などに活用できるところから、未来のエネルギー源として注目を集めています。
 ウランなどの原子核が分裂する核分裂とは、ちょうど逆の反応ですね。

 核融合は、数億度の熱と非常に高い圧力で原子をプラズマ状態にし、それを強い磁力を発生させた炉の中に閉じ込め、ぶつけることで反応を起こさせます。
 太陽のエネルギー発生源は、この核融合です。太陽の中では、プラズマ状態になった水素分子などが融合し、太陽の光と熱を発します。
 原料は主に水素の核が2つになった「重水素」と3つになった「3重水素」。海の中に豊富に含まれており、原子炉のウランのように他国から輸入する必要はありません。
 核融合のエネルギーは、このたった1グラムの原料で、石油8トン分を燃やしたのと同じ分。そのエネルギーの大きさが分かろうというものです。
 排出される物質は、ヘリウムと中性子のみ。ヘリウムには放射能はなく、中性子は炉内に放射能を帯びさせますが、通常の原子炉より少なく、100年もすれば減衰してしまいます。
 なお、水素爆弾も核融合のエネルギーを利用しますが、原理が発電とは異なるので、軍事利用には使われません。

■核融合の過去と現在

「核融合」自体は、ずいぶん古くから研究されてきた技術です。発見されたのは1920年代と第2次大戦前。粒子加速器の研究を続けてきたジョン・コッククロフトらの物理学者によって、陽子に高エネルギーを与えて別の核に当てると、核同士が融合し膨大なエネルギーを発生させることが分かっていました。
 ただし、当時は核融合に必要な、超高温・高圧の状態を生み出す炉の製作が困難でした。
 核融合炉には、1億度以上に原料を加熱してプラズマにし、ずっと閉じ込めておくための強力な磁力を帯びた容器が必要です。容器は「トカマク式」や「ヘリカル式」といい、超電導コイルで囲んでプラズマを逃がさないものです。また、水素を高温にするための大出力レーザーの開発も必要です。 核融合炉の開発には、多分野で多くの技術開発が必要とされます。

 その後、研究が続けられ、日本でも核融合炉の実験は行われてきました。
 1960年代には、旧ソ連(現在のロシア)のトカマク式核融合炉が注目を浴び、1980年代には、日本の量子科学技術研究開発機構のJT-60をはじめ、アメリカ、ヨーロッパでも核融合炉の開発が行われていました。

 核融合炉の実現のため、現在最も期待されているのが、国際共同開発の「ITER計画」です。この計画は1985年の米ソ首脳会談で提唱されたのがスタートです。その後、2007年にアメリカ、ロシア、ヨーロッパに中国、韓国、インドが加わり、ITER協定として発効。開発が推進されています。
 
■ベンチャーが多く参画し始めた

 このように国際共同事業として核融合の開発が進んできたのですが、最近では様相が少し変わっています。
 核融合は、二酸化炭素を排出しない、脱炭素に欠かせない技術。
 そこで、世界各国で核融合のベンチャー企業がいくつも現れ、激しい開発競争を行っているのです。
 
 2022年12月には、アメリカ・エネルギー省が管轄するローレンス・リバモア研究所で、世界初の核融合炉の点火が行われ、投入したものより多くのエネルギーが取り出されたことが発表されました。
まだ検証中ですが、核融合炉の開発が現実に行われたのです。
 また、アメリカIT大手、マイクロソフト社は2028年から、核融合炉で発電された電力を買う契約をしたことを発表しました。アメリカのベンチャー企業のヘリオン・エナジー社が、2028年から商用核融合炉を稼働すると発表したことに合わせたものです。
 また、核融合関係の特許申請では、アメリカと並んで中国も存在感を放っています。
 日本でも、ベンチャー企業が次々生まれ、京都大学発の京都フュージョニアリングが13億円の資金調達を決めるなど、動きが活発になってきています。
 こうして各国で開発が進む「核融合」。
 ところで、やっぱり「核融合」というと、原発と同じだと錯覚して、拒否する人が多いようです。「核」という言葉が入っているのが悪いのでしょうか。
 ひょっとしたら「水素融合炉」とかいうように、名前を変えたほうが印象がよくなるのかもしれません。今後の技術の浸透には、イメージ戦略も必要になってくるでしょう。