お役立ちコラム

【電力コラム】今年も夏の節電依頼が

■今年の夏も節電依頼が…

 さて、2023年の今年も、暑い夏がやってこようとしています。
すでに5月には真夏日を記録。温室効果ガスによる気候変動のせいで、昔と比べて暑さは増しているのは確実で、今年も天気予報では「暑い夏になるだろう」との予想が示されています。
 夏が暑くなると、エアコンの利用などが多くなり、電力需要もまた増えていきます。
 今年は電気料金の高騰などで、節電を行う家庭が増えそうですが、電力消費はやはり増加するでしょう。
 経済産業省が先ごろ発表した資料では、今年も「10年に一度の厳しい暑さを想定した」電力需要の予備率が示されています。

            7月    8月    9月
  北海道・東北    5.2%   7.6%   15.8%
  東京        3.1%   4.8%   5.3%
  中部        9.8%   11.7%   7.8%
  北陸・関西・中国  9.8%   11.9%   11.3%
  四国        11.2%   14.4%   11.3%
  九州        9.8%   11.9%   18.5%
  沖縄        22.3%   18.7%   21.6%

■予備率とは…

 予備率とは、電力の需要に対する発電の余力です。このコラムでも何度か言っている通り、電力は貯めてはおけません。蓄電池はありますが、貯めておけるのは使っている量のごく一部です。
 そこで、急に電力の使用量が増えた場合(需要増)に備えて、発電の余力を持たせておく必要があります。
 それが予備率です。
 予備率の計算式は、以下の通りです。
  供給予備力 = ピーク時供給力 ― 予想最大電力
  予備率(%)= 供給予備力 / 予想最大電力 × 100
 
 電力の使用量(電力需要)は、予想に比べて3%程度のぶれがあります。だから、3%くらい余裕をみておかないと、予想外に電力の使用量が増えた時や供給量が低下した時、送電の周波数が乱れ、電気機器に誤作動が生じたり動きにくくなったりする上、最悪は停電が起きたりします。
 電力の予備率が低下する原因は以下のようなものがあります。
 ●発電所の故障や修理によるストップ
 ●曇りや雨などで太陽光発電所の電力供給が低下、もしくはストップ
 ●水力発電所の貯水の低下
 ●急な暑さ・寒さによる電力需要の急上昇
 ●注目の大イベント(WBCの決勝戦など)によるテレビ観戦者数の増加など

 過去の予備率低下や大停電に関しては、こうした原因のうち、複数が同時に発生したケースが多くみられます。
 なお、100万kW(1GW)の発電所が1ヶ所停止すると、予備率が2%ほど低下するようです。1GWは、おおむね原発の1基分です。

■今年の夏も、東京エリアで節電要請が

 さて、今年の夏も昨年同様、東京エリアで7月に予備率が3.1%、8月に4.8%と電力需要がひっ迫します。
 これは、あくまでも「10年に一度の猛暑となった場合」という最悪のケースを想定したものです。
ですが、最近の夏はご存じの通り、毎年のように「10年に一度の猛暑」がやってきています。油断はできません。
 政府では、この予想にもとづき、東電管区内(東京エリア)に「節電要請」を出すことに決めました。
 「節電要請」は、必要に応じて、一般家庭や企業に、省エネや節電を呼びかけるもの。
 今回は目標数値などは決められていませんが、政府では無理のない範囲での節電を呼びかけています。
 節電要請には難しい側面があります。あまり強く「大変ですので、ぜひ節電を」と呼びかけてしまうと、高齢者の方などが無理をしてエアコンの冷房を切ってしまい、熱中症になったりするからです。それでは本末転倒ですので、「無理のない範囲」でとの注意がなされています。
 なお、東京エリア以外では、予備率が5.2%以上であるため、節電要請は行われません。ただし、電気料金高騰のおり、節電には気をつけたいものです。

 ちなみに、翌日の電力予備率が3%を切ると予想される時には、前日の16時までに政府(資源エネルギー庁)から「電力需給ひっ迫警報」が出されます。電力供給の非常事態宣言のようなもので、各所に節電依頼がなされる他、一般家庭や企業などにも節電の呼びかけが行われます。

■政府の対策

 このような予備率の低下に備えるため、政府では、さまざまな対策を考えています。
 まず供給力対策として、
●火力発電所などの休止電源の稼働
●デマンド・レスポンス(DR)等の調達
●発電所などの補修点検の時期の調整や、計画外の停止への未然防止
●再エネや原子力の活用
 などを挙げています。最近の予備率の急激な低下には、発電所の計画外・予想外の停止がからんでいることが多く、多大な注意を払っていることと思われます。
また、需要対策として、先に述べた
●無理のない節電の協力の呼びかけ
●対価支払型DRの普及拡大
●産業界や自治体等と連携した節電体制の構築
 などを挙げています。
 この中で目につくのは、対価支払型DRでしょうか。節電1Wにつき電気料金を値下げしたり、ポイント制にしてポイントを付与するなどの考え方です。まだ大半の新電力企業では実証実験中ですが、今後進展してくのではないかと思われます。
さらに、電力業界の構造的対策としては、
●容量市場の着実な運用
●災害等に備えた予備電源の確保
●脱炭素電源等への新規投資
●揚水発電の維持・強化
●蓄電池等の分散型電源の活用
●地域間連系線の整備など
 が挙げられています。
 容量市場とは、再エネ発電所の増加の影で休止・廃止が進む、火力発電所などを緊急の電源として保全・整備しておくための資金調達の手段です。本来、石炭火力発電所などは世界的な傾向として廃止が進んでいます。しかし、太陽光発電所などが悪天候で発電できない時の予備電源として、火力発電所などを保全しておくためのものです。
 さまざまな対策が準備されている、夏冬の電力対策。でも、一番なのは我々が無駄な電気を使わないことかもしれません。
 もちろん、エアコンを点けずにいることなどは論外ですが、無理せず節電を心がけることが一番でしょう。