お役立ちコラム

キニナル・コトバ 第12回「レジリエンス」

「レジリエンス」。何、それ? と言われそうですね。もともとは物理学の用語で、「回復力」みたいな意味です。また、大災害などへの対処法にに使われたりしてもいます。でも最近では心理学の方面でも注目を集め、ビジネスシーンでも使われはじめています。意外にトレンドな言葉なので、覚えておいて損はないと思います。
 いったい、どういう意味なのでしょうか。

■物理学用語としての「レジリエンス」

 物理学用語としての「レジリエンス(resilience)」は、「回復力」とか「復元力」という意味です。「外から強い力が加えられることによって、変形した物体が、元に戻ろうとする力やその度合い」を表すものでした。
 反対語は「脆弱性(Vulnerability)」で、こちらの言葉は、ITシステムなどがサイバー攻撃を受けた時などの「もろさ」を示すものとしてよく知られていますね。セキュリティの用語としてよく使われます。

 一方で、最近注目されている「レジリエンス」は、暮らしや仕事の中で大きな問題が持ち上がったり、強いストレスを受けた時などに「立ち直る力」「回復する力」のことです。
 「自発的治癒力」ともいわれ、人間が危機やストレスを乗り越えて、悪い状況から立ち直ったり、環境に適応していく力ですね。

■自然災害に対する「レジリエンス」

 自然災害に対する「レジリエンス」では、電力の世界で使われるものがよく知られています。
 大災害が起きても、停電しない電力ネットワークを作る、という取り組みです。
 国内では、2018年9月6日に起きた北海道胆振(いぶり)東部地震によって、史上初のブラックアウトが発生しました。ブラックアウトというのは、広域における停電。この時には、北海道全域にわたる地域で停電が起きたのです。
 停電の原因は、北海道で最も大きな苫東厚真発電所の一部(2、4号機)が、地震による事故で停止したことでした。電力は、常に発電した量(供給)と使う量(需要)が同じでなくてはなりません。
 そうしないと電気の周波数が乱れ、停電が起きてしまうからです。この時は苫東厚真発電所の停止により周波数が低下し、いったんは復旧に向かいますが、別の要因も加わって、他の発電所などが連鎖的に停電。ブラックアウトとなったのでした。
 その翌年にも、台風の襲来により、千葉県で多くの送電線が切断され、大規模な停電が発生することになりました。

 停電の原因は、1本の電力ネットワークに頼りがちな、日本のシステム自体の脆弱性にもよります。
 政府では、こうしたことが再び起きないよう、2020年から「エネルギー供給強靭化法」を制定。「強靭化(レジリエンス)」という言葉をキーに、災害に強い電力インフラ作りを進めることとしました。
 改善の方法は、ネットワークの運用・管理者である送配電事業者に、「災害時に連携する計画」を作らせるというものです。また、送配電ネットワークを強化し、異なるエリア間で分断されがちだった電力を、もっとお互いに融通するなどのことです。
 さらに、太陽光発電設備などを活用し、地域で独立した電力ネットワークを作り、電線が切れたりして孤立しても、地域独自の発電・供給でまかなうという「分散型」のネットワークの構築も進めるようです。
 災害における「強靭性(レジリエンス)」は、電力をはじめ、各所で進められています。
 
■心理学の「レジリエンス」

 では、人間社会でのレジリエンスとは何でしょうか。
 心理学のレジリエンスは、「極端に悪い状況に直面したとしても、正常な平衡状態を維持できる能力」のことです。元は、児童の中でも、不利な生活環境、貧困家庭や精神疾患を持つ親、DV行為にさらされた者に対する研究が元になったということです。最近では、成人に関しても研究が進められているようです。
 レジリエンスの研究では、PTSD(心的外傷)に陥るような深刻な体験にさらされても、実際にPTSDになる人は全体の20%以下であるという結果がでています。
 全員が、精神的に参ってしまうわけではないのです。
 こうした、PTSDにならない人が持っている要素、力とは何なのかを考えたのがレジリエンスです。

 レジリエンスで有名な研究に、早稲田大学教授で心理学者の小塩真司(おしお・あつし)氏の研究があります。
 氏によれば、人が持っている、レジリエンスを導く因子を「精神的回復力」とします。
 この精神的回復力は、下の3つの因子からできています。
(1)新奇性追求
新たな物事・人などに興味を持ったり、常識や習慣にとらわれず前向きにチャレンジする姿勢や行動などです。
(2)感情調整
 自らの感情、特に怒りや哀しみのような感情をコントロールすることです。
(3)肯定的な未来志向
 前向きな未来を予想して目標やビジョンを持ち、実現するための具体的なプランを描き実践していくことです。
 こうした因子を多く持ったり、あるいは獲得することで、精神の「レジリエンス」は磨かれていきます。
  
■「レジリエンス」という言葉が注目を浴びる背景

 「レジリエンス」という言葉が、注目を浴びるのは、今の時代の状況も大きく関与しています。
 新型コロナの影響で、外出もままならなくなり、外食産業を中心に経済も大きなダメージを受けました。また、地球温暖化の影響で、2~30年前には考えられなかった気候変動、記録的に長く続く暑さやひどい豪雨災害などが日本を襲っています。
 また経済面でも、貧富の差が拡大。貧困層が増え、正規雇用も少なくなり、未来に希望が持てない状況が続いています。最近はやや明るい兆しが見えるとはいえ、ITなどで諸外国から遅れをとり、自分の国に自信が持てないのも原因のひとつでしょう。
 こうしたストレスの多い時代を生き抜くため、社会や個々人の「レジリエンス」は、今強く必要とされています。
 それにしても、心理学のレジリエンスを読んでいると、「好奇心を強く持ち、怒りや悲しみを抑え、楽天的であれ」と言われているようです。
 今、激しい時代に生きている私たち。自分のレジリエンスを高めながら、なんとかこの時代を生き抜きたいものですね。