お役立ちコラム

キニナル・コトバ 第13回「越境EC」

「越境EC」。意外に聞きなれない言葉でしょうか。それとも、当たり前すぎて見逃している言葉でしょうか。経済のグローバル化が進展している現在、「越境EC」はその代表的な言葉ともいえます。ひょっとしたら、あなたの会社でもすでに越境ECを行っているかもしれません。
 いったい、どういう意味なのでしょうか。

■「越境EC」とは何か

 「越境EC」のECとは、Electric Commerce、「電子商取引」のこと。
 越境ECとは、すなわち海外との電子商取引のことです。電子商取引とはご存じの通り、インターネットを介した商取引、ネット通販やサブスク販売のことと言ってしまってもいいでしょう。
 越境ECには、企業同士の取引(BtoB)、企業と消費者との取引(BtoC)がありますが、ここでは後者のBtoCに絞って話をしたいと思います。

 海外のネット通販サイトなどから商品を購入する。また、逆に海外の顧客が日本のサイトから商品を購入する。こうした「越境EC」の販売額が伸びつつあります。
 特に注目したいのは、海外の顧客が日本のサイトから商品を購入するケースです。
 経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」(2022年8月12日)によれば、越境ECで外国から商品を購入した額は、日本国内では2019年に3,175億円、2020年には3,416億円、2021年には3,727億円と右肩上がりの数値を示しています。伸び率は2021年で9.1%でした。大きな伸びが見られます。
【各国の越境EC購入額】
2019年 2020年 2021年 伸び率(2021年)
日本 3,175億円 3,416億円 3,727億円 9.10%
米国 1兆5,570億円 1兆7,108億円 2兆409億円 19.30%
中国 3兆6,652億円 4兆2,617億円 4兆7,165億円 10.70%

 より注目なのは米国や中国の越境EC購入額です。2021年段階で米国は2兆409億円、中国は4兆7,165億円。日本とは桁違いに大きな市場であり、しかも伸び率は米国で19.3%、中国で10.7%です。さらに、中国消費者が日本の事業者から買った、越境EC購入額は2兆1,382億円にも上ります。
 越境ECに、いかに大きな可能性があるのかが窺えるでしょう。
 国内外合わせたEC市場の国別規模でも、全世界的にみると中国が52.1%で首位、2位が米国の19%。英国が3位の4.5%、日本が4位の3.0%ですから、中国・米国2国の存在感は、EC市場において圧倒的です。
 
■越境ECが人気の理由

 これほど越境ECが伸びた要因には、さまざまなものが考えられます。一つには米国の好景気。また、中国などの消費者の所得額の上昇で、購買力が上がったこと。また日本製品が、外国に比べ相対的に価格が安くなったことも要因です。
 日本製品は、最近こそ値上がりしつつあるものの、海外のような強烈なインフレの影響をまだ受けていません。円安の影響もあり、海外の消費者には安く買えるという印象があります。しかも日本製品の品質の高さ・ブランド力は、一時期ほどではないにしてもまだまだ健在です。
 良い品が安く買える。最近よく聞く、「買い時の日本」というわけです。
 もう一つ、最大の理由としては、ゲーム関連商品やブランド衣類など、日本でしか買えない商品が多く販売されている点です。
 海外のブランド品などは、日本ではかなり幅広く買えます。だからどこの国でも同じと思いがちですが、国によっては、自国では販売されていないブランド品も多く、手に入らないものが意外にあるのです。そうした商品が、日本のECサイトでは、割安で手に入れられます。
 ゲームや音楽ソフトなどにも、海外のマニアが群がります。廃番になったレアなゲームソフトや、アニメのフィギュアなど。
 シティ・ポップの世界的なブームで、海外のマニアが、日本のECサイトからレアなLPレコードを大量に買っていくことなども、代表的な光景の一つでしょう。

■越境ECへの国内の企業の動き

 そうした流れを受けて、日本のECショップ側でも「越境EC」に参入しようという動きが広まっています。
 ECサイトの国内販売は増加傾向にあります。国内のEC市場は、2013年には約11.2兆円でしたが、2021年には20.7兆円となりました。
 コロナ期の「巣ごもり消費」で、主に物販系のネット通販での購入が増えたのち、コロナ後で外出機会が増えてきても、人々がECサイトでの購入に慣れ、定着したからです。またコロナ期に減少していた旅行などサービス系の販売が増加したのも一因です。
 この余勢をかってか、海外に向けての販売を行う動きが活発なのです。 

 日本の市場規模は、少子化の影響などによって今後、拡大する余地は限られています。
 一方、世界に目を転じれば、日本とは比較にならない巨大なマーケットが開けます。中国を代表として、世界で成功すれば、売り上げ規模を一気に国内の数十倍にするのも夢ではありません。EC販売で、グローバルマーケットに参入する可能性が開けるのです。
 また、日本では大きな売り上げ増が期待できない「枯れた」商品でも、海外で販売すると意外な点から人気が出るケースもあるようです。こうしたニッチな市場の開拓を目指し、越境ECにチャレンジする中小企業も増えているようです。
 
■越境ECを行うには

 一般消費者向け(BtoC)のECサイトの販売は、主に3分野に分けられます。
(1)「物販系」(食品や飲料、書籍、家電、PC、衣類や家具、生活雑貨など)
(2)「サービス系」(旅行、飲食サービス、チケット販売、金融サービスなど)
(3)「デジタル系」(オンラインゲーム、電子出版、音楽配信など)
 このうち、越境ECで成功しやすいのは、データで品をやり取りし、オンライン上で決済等が完了する(3)のデジタル系だといわれています。物流を介さないため、海外特有の法律・慣習などに左右されず取引ができるからです。

 越境ECサイトを行うには、海外法人を設立する、その国のモールに出店する、日本の越境モールに出店する、現在あるECサイトで海外対応を行う、などの方法があります。ただ、海外法人を設立するなどの方法は、大がかりでコストも高く、語学力があり海外の法律や商習慣に詳しい人間を雇う必要があるなど、かなり敷居が高いと思われます。
 一般的な越境ECへの参画方法は、自社のECサイトを海外対応にすることでしょう。
 ターゲット・エリア(たとえば中国、欧米、インドなど)を絞り、サイトの言語をその国対応とし、決済システムなどもその国に合わせたものにして販売を行うのです。

 また、その国の越境ECモールに出店するのも有効でしょう。アメリカなどであれば、AmazonやeBayなどで越境EC販売が可能です。中国ではアリババグループが運営する天猫国際(Tmall Global)などが越境ECモールを設けています。日本でも、アパレル関連などで越境ECモールがいくつか運営されています。

■越境ECのメリット、デメリット

 こうした越境ECサイトですが、人気が出れば大きな売上が期待できる反面、デメリットやリスクも多く存在します。
 ひとつには、商品輸出について、現地での配送方法をどうするか、という問題です。紛失したり、盗難にあったりするケースもあるので、その時の対処法なども考えておく必要があります。最近では、配送代行サービスや、現地で物流倉庫をレンタルできる業者などもありますので、検討してみてもよいでしょう。
 また輸送コストは、国内販売よりどうしても割高になります。販売価格に上乗せするため、海外の、特に安いからと購入を検討している顧客にとってはマイナス要因となります。

 さらに、輸出に関税がかかったり、許可証が必要な場合もあります。アメリカへの化粧品、医薬品などの輸出では、FDA登録が必要になります。ヨーロッパやアジア各国への化粧品の輸出に対しても許可が必要な場合があります。
 農産物に関しても、国によって検疫の問題が関わる場合があります。
 決済方法も国によってさまざまなので、その国に合わせた決済方法を検討する必要があります。

 こうした「越境EC」ですが、最近では代行サービスなども充実してきており、以前よりハードルは低くなってきているようです。
 インバウンド消費が話題ですが、特に中国などでは、一度訪れた日本で商品を気に入り、口コミで人気が広がるケースもあるようです。たとえば、日本の普通のドラッグストアで売られている薬や軟膏が、「神薬」として人気だったりするように。
 御社の製品やソフトウェアも、ひょっとしたら海外で意外な人気を獲得するかもしれません。越境ECは、そういう可能性を秘めているものだと思われます。