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【電力コラム】ロシアがウクライナ侵攻、電力への影響は!?

■ロシア、ウクライナに軍事侵攻

2022年2月24日、ウクライナ国境付近に軍を置いていたロシアが、全面侵攻を開始しました。両国は、ロシアのウクライナ東部掌握などを経た後、ウクライナが反転攻勢を行うなどの攻防を続けています。戦乱はいまだ収まる気配がありません。
 ウクライナ紛争の発生で、世界の資源供給は不安定さを増しました。天然ガス資源の高騰は続き、2022年3月にはLNGのスポット価格は昨年同時期の14倍に。今も高い水準が続いています。
 ウクライナ侵攻によって、アメリカ・EUを始め日本も、ロシアの侵攻を非難。経済制裁を実行に移しました。経済制裁の内容は、ロシアの要人などの資産凍結やロシア中銀への金融制裁、製品各種の輸出入の禁止など、幅広い分野にわたっています。
 中でも電力業界が注視するのは、ロシアの主要輸出品目である石油、天然ガス、石炭などの化石エネルギーの動向です。
 日本はロシアから、2021年度で原油3.6%(輸入先の5位)、LNG8.8%(同5位)、石炭11%(同3位)を輸入。比較的大きく頼っています。極端な依存ではありませんが、無くなれば影響はあります。
 日本だけではありません。ドイツは2020年度で、石油34%、天然ガス43%、石炭48%をロシアに依存。フランスは天然ガス27%、石炭29%、イタリアは石油11%、天然ガス31%、石炭56%をロシアに依存。特に天然ガスは、ヨーロッパの電源構成の約20%を占めますが、その40%がロシア産です。いわば首根っこを押さえられた状態なのです。

■ロシアに対する経済制裁は

 ロシアに対する天然資源の輸入禁止は、経済制裁の中でも主だったものです。アメリカは、ロシアからの原油、天然ガス、石炭などのエネルギーを全面的に輸入禁止にしました。
 EUでは、ロシアからの石炭を輸入禁止にしました。天然ガスは当面輸入禁止にはしないものの、ロシア依存は2030年までに脱却。2022年末までには、ロシア産天然ガスの消費を2/3削減するとしています。
 石油は段階的に禁輸を進め、2023年末に完全禁輸する予定です。ロシア産エネルギーへの依存が強いヨーロッパにとって、大きな選択です。
 EUでは、天然ガスのロシア依存脱却の方法として、カタールや米国、エジプトなどからのLNG輸入、アゼルバイジャン、ノルウェーなどからのパイプライン輸入を代替に充てるとしています。
 また、イギリスは原油の輸入を2022年6月で完全に停止。天然ガスもロシア依存を減らすことを検討しています。
 日本も2022年5月に岸田首相が、ロシア産石油の原則禁輸を表明しました。実態を踏まえて段階的な禁輸を検討していく考えです。

■ロシア側の対抗措置は「サハリン2」国有化

 ロシア側でも対抗措置として、ヨーロッパ各国に対しては天然ガスの代金をロシアの通貨「ルーブル」で払うよう通達しました。天然ガスの取引には通常、ドルやユーロが使われます。支払のためルーブルを買わせることで、下落する自国通貨の価値を支えるもくろみです。
 しかし、ドイツを始めヨーロッパ各国はルーブル建て払いを拒否しました。ロシアは天然ガスの供給打ち切りをほのめかせたり、ヨーロッパ向けの基幹パイプラインであるノルドストリームの「検査による」停止を行っていました。
 ノルドストリームでは、2022年にすでに運用されていた1と運用前の2で爆発が発生。現在、使用が停止されています。またロシアは、制裁に参加していない中国やインドにも石油や天然ガスの提供で接近しており、動きは活発です。
 一方で日本に対しては、プーチン大統領が、極東のサハリン州で日本が資本参加して進行中の「サハリン2プロジェクト」を国有化することを宣言しました。
 ロシアで日本が参画するプログラムは、北極海沿岸の「北極LNG2」(2023年頃開始予定)と「ヤマルLNG」(2018年生産開始)、ロシア中部イルクーツク州での「INK-Zapad(原油)」(2016年開始)、それと極東サハリン州の「サハリン1(原油)」(2005年開始)と「サハリン2(原油・LNG)」(原油1999年・LNG2009年開始)と5ヶ所にのぼります。
 このうちサハリン1・2のプロジェクトは日本に近いこともあり、非常に重要です。サハリン1の原油は、地政学的に不安定な中東に依存しがちな日本にあって、安定供給が保障される重要なプロジェクトです。
 我が国では30%の権益を有しています。
 一方のサハリン2からは、原油で日産1.2万バレル、天然ガス600万トンを輸入しています。日本のLNG需要量の9%、電力供給力の3%にあたります。供給が止まれば、電力やガスの需給ひっ迫の危険が日常化するのです。
 サハリン2の国有化で、すぐに生産が止まるとは限りませんが、電源の40%をLNGに頼る日本。LNGは、短期のスポット調達が難しく世界的な不足と価格の高騰が続いていることもあります。大きな影響は避けられないと見られます。
 
■戦争が脱炭素化を停滞させる

 LNG価格の高騰など、資源供給の危機が続く現在。特にエネルギーのロシア依存が高いヨーロッパでは、停止予定だった原子力発電所の運転継続を相次いで決めるなど、エネルギー計画の見直しが進んでいます。日本でも、休止中の石炭火力発電所の再開を意図するなど、対策が進んでいます。
ロシアからの天然ガス禁輸は、世界各国で他国からのLNG輸入の争奪戦を引き起こし、エネルギー価格の高騰や電力の不足を生みました。日本のみならず、世界の電力事情に大きな影響を与えています。
 ウクライナ紛争の勃発で、脱炭素化に向けて進んでいた世界の目標は停滞に入ったとも考えられます。戦争の開始で、各国が対応に追われ、腰を据えた脱炭素化に取り組みづらくなっています。戦争は、脱炭素化の最大の敵なのかもしれません。
 長期化が予想されるウクライナ紛争。安定した資源供給が行われる世界は、また復活するのでしょうか。