各国の電力自由化状況

オセアニア

オーストラリア

オセアニア最大の国で、日本とは貿易で密接な結びつき

 オーストラリアは、オセアニア最大の国で、国土は「島」ではなく「大陸」です。国土面積は769.2万km2とブラジルに次ぐ世界6位で日本の約20倍、アラスカを除くアメリカ合衆国とほぼ同じ広さです。砂漠やステップが多いため、国土の40%は居住が困難で、人口は2,510万人と少なく、海辺に都市が集中しています。
 かつてはイギリスの植民地で、現在も英連邦の1国として英エリザベス女王を君主とする立憲君主制を敷いています。ただ事実上は州の権限が強く、連邦制をとっています。
 資源は豊富で、石炭や鉄鉱石、金やボーキサイトの輸出が多く、日本は第2位の貿易相手国。名目GDPは1兆4,258億ドル(2018年)で世界14位、1人あたりのGDPは56,352ドルで世界11位と高水準です。

エネルギー転換を急ぎ、費用が莫大に。電気料金が高騰

 そんなオーストラリアの電力事情ですが、近年は政策によるねじれが現れています。
 発電の電源構成は石炭が63%、天然ガスが20%、水力6%、石油2%で、再生可能エネルギーが9%。石炭火力が中心となっています。なお、ウラン資源は豊富ですが、原子力発電は国民の反対が強く、使われていません。
 1990年代には豊富な国産石炭を利用した石炭火力が全発電の83%を占めていました。しかし、国民1人あたりの温室効果ガス排出量が世界最悪であるとの批判を受け、風力を中心に再エネの導入を積極的に進めたことと、古くなった石炭火力発電所の廃止、天然ガス火力への転換を行ったことで、石炭火力の比率が20%低下しました。

 ただ、風力などクリーンエネルギーへの転換を強引に図ったため、巨額の投資が電気料金にはね返りました。結果として、1年間に電気料金が2倍になるような事態を招き、「世界一電気代の高い国」とも呼ばれています。さらに、風力などの再エネ発電による電力供給が不安定なため、2017年には大規模な停電も発生しています。
 こうした経緯から、2017年には「NEG制度」を設け、再エネばかり使うのではなく、石炭火力などの安定的な発電所から一定割合の電力を供給することになりました。

1年に3割の需要者が小売事業者を変更?!

 オーストラリアの電力事業は、6つある州と首都メルボルンのある首都特別地域、北部準州の8つのエリアでそれぞれ州単位で運営が行われています。国土が広いので、州をまたぐ卸電力市場や送電系統は連邦政府が担当し、配電・小売分野は州政府の担当となっています。
 卸電力分野については、1994年に南東部のヴィクトリア州で「ヴィク・プール」という卸電力市場が生まれたのを皮切りに、各州で市場が誕生。1998年には5州の電力市場を統合する「NEM(ナショナル・エレクトリシティ・マーケット)」が取引を開始し、オーストラリアの全電力の85%程度を取り扱うようになりました。
 送電系統は、NEMのエリアでは連邦政府が運用を監視しています。配電系統は13エリアに分割しており、民間企業も入っていますが、その多くは州政府に管理されているか、資本提供された企業です。
 小売分野に関しては、1994年にヴィクトリア州で自由化が行われたのをスタートに、2003年に家庭用を含めた全面自由化が行われました。
 需要家が小売事業者を変える率は非常に高く、年間3割程度のユーザーが事業者を変えるといわれます。理由は、電気料金が高いため、安いサービスから安いサービスへとシーズンごとに移り、節約を行うというシビアなものです。

電力産業への日本の参画は

 高い電気料金にあえぐ、という表現がふさわしいオーストラリア。小売事業への参画にメリットを見出すのは難しいかもしれませんが、日本へのエネルギー供給国としての地位は高く、日本からも多くのエネルギー関連企業がオーストラリアの資源開発に参入しています。特にオーストラリア北部沖合の天然ガス田の開発やLNG精製などにJERA(東京電力と中部電力の子会社)が参入するなど、積極的な参画が行われています。今後も密接な関係を持つ友好国として注目したい国です。