各国の電力自由化状況

ヨーロッパ

フランス

世界の文化・産業の先進国、農業大国としての顔も

 フランスはファッションやアート、食など文化の発信地として有名ですが、産業でも世界の先進国であり、EU(欧州連合)のリーダー国のひとつです。国土面積は63.2万km2と日本の1.7倍で、人口は6,281万人(2016年)と日本の半分程度。先進工業国である一方、広い国土を利用し、穀物・家畜などの生産が豊富で、EU最大の農業国でもあります。
 名目GDPは2兆7,752億ドルと世界6位(2018年)。ヨーロッパではドイツ、イギリスに次いで3位です。1人あたりのGDPも42,878ドルと高い水準にあります。

国内資源に乏しく電源の多くは原子力から

 フランスはイギリスやドイツと違って石炭以外の国内資源に乏しく、以前は発電用燃料を輸入石油に頼っていました。しかしオイルショック以降、石油に代わり原子力発電を主力に据えました。現在は原子力73%、水力11%、天然ガス6%、石炭2%、その他7%と、全発電量の4分の3を原子力に依存しています。
 ただ、今後は原子力発電の比率を下げ、2035年までに50%にすることを目標としています。石炭火力についても、2023年までに全廃する方針です。一方、再生可能エネルギーの開発には積極的で、2030年には発電量の40%を再エネでまかなうことも目標に掲げました。

電力業界は、旧国営公社のEDFがいまだに独占

 こうしたフランスの電力業界は、2004年にフランス電力公社から民営化されたEDF(フランス電力会社)が90%以上の需要家を押さえ、独占状態です。EDFは民間企業ですが、フランス政府が株式の75%を保持していて、実質上国営企業ともいえます。
 EUの電力自由化は、「各国の巨大エネルギー企業が他国に進出して業界を再編する」という傾向が強いですが、EDFも民営化することでドイツやイギリスなどに進出しました。
 フランスでは、発電事業の多くは民間企業が参入しにくい原子力発電所です。原子力事業の80%はEDFが抑え、他に旧GDF(フランスガス公社)がスエズと合併した「エンジー」がガス火力、CNRが水力発電を担っています。
 送電事業は2005年にEDFから独立したRTEが独占。配電事業はやはりEDFから独立した「エネディス」がほぼ独占しており、地方配電事業者のシェアは5%以下しかありません。
 小売事業には200社以上がエントリーしていますが、EDF、エンジーの存在が圧倒的です。

電力自由化で小売事業者を変えた事業者は1割以下

 電力自由化が始まったのは1999年の「EU電力自由化指令」と翌年の「電力自由化法」施行からです。法改正により、1999年には年間消費電力量1億kWh以上の大口需要家(全体の20%)、2000年には1,600万kWh以上の需要家(全体の30%)など段階的に自由化が行われ、2007年から家庭用を含む全面自由化が達成されました。
 しかし、この自由化で、小売事業者を変えた需要者は市場料金が課される一方で、変えずにいた需要者にも政府の規制料金が適用されました。規制料金は安い原子力発電の発電原価をもとに決められるため、市場料金と同じか安い時も多くあります。自由化のメリットは少なく、小売事業者を乗り換えた需要家は数%と、ごく一部に限られました。
 2016年には大口需要家への規制料金が撤廃されました。家庭用の規制料金は将来的に廃止する方向ですが、まだ残されています。

日本の参入はEDFなど欧州巨大企業との競合

 十分な電力自由化が行われているとはいえないフランス。小売事業への日本からの参入は、EDFやエンジーなどの欧州巨大企業との競合になりそうです。ただ、2016年には東京電力と中部電力の関連会社であるJERAが、EDFの石炭取引事業を統合するなどの取引も行われています。
 再エネ発電事業などへの参画可能性も期待でき、フランス政府の将来的な政策が注視されるところです。