各国の電力自由化状況

ヨーロッパ

イタリア

北部と南部の格差が大きく、他の先進国とはやや差

 イタリア共和国は、古代ローマ帝国の中心となった歴史ある国で、首都ローマにはカソリックの総本山・バチカン市国があります。
 面積は30.2万km2と日本の5分の4程度で、人口は6,048万人(2018年)。北部はミラノ、トリノなど工業都市が多く裕福とされ、対して南部は農業中心で貧しいとされます。名目GDPは2兆722億ドル(2018年)とインドに次ぐ世界8位。自動車、服飾などの産業で有名で、ヨーロッパではフランスに次ぐ4位でG7にも参加しています。1人あたりのGDPは34,260ドルと高水準ですが、他のEU先進国からはやや水をあけられています。

電力の15%以上は海外からの輸入

 イタリアは資源に乏しく、また国内での発電量も少ないため、8割のエネルギーを他国からの供給に依存し、電力は15%(2015年)を輸入に頼っています。電力の主な輸入元はスイスとフランスですが、スイスは中継地に過ぎず、実質はフランスからの輸入が多くを占めます。
 国内の電源構成は、天然ガスが42%、次いで再生可能エネルギー25%、水力、石炭が各14%、石油が4%です。
 再生可能エネルギーの開発には積極的で、2020年には再エネの比率を32~35%程度に引き上げることを目標としています。2017年では、水力2,243万kW、太陽光1,968万kW、風力974万kW、地熱77万kWが発電されています。
 再エネの促進策については、2002年からグリーン電力証書制度(再生可能エネルギーで発電された電力の環境付加価値を「グリーン電力証書」という一種の証券にして有料化し、補助金代わりにする制度)を導入。また2005年から太陽光発電にのみFITが導入されました。これらは、2013年度からはFITに一本化されています。
 なお、国内には原子力発電所もありますが、1987年のチェルノブイリ事故以降、国民投票で原子力発電所の建設などが否決され、現在では運転中の原子力発電所はありません。
 石炭火力発電所についても、2025年には完全停止が決められています。

自由化後も6割の家庭は規制料金を採用

 イタリアの電力業界では、かつては国営企業のエネルが発送配電を独占していました。しかしEU発足と同時に行われた電力自由化で、事業部門が解体され、エネルは持ち株会社化。現在では、政府の持ち株比率は4分の1程度となっています。
 発電部門は、エネルから分社した3社が分け合い、送電部門は、エネルから分社したテルナが行っています。
 卸売電力市場については、取引の透明化を図るため、2005年からイタリア電力取引所(IPEX)が開かれ、すべての電力の取引が行われています。
 小売部門の自由化は、1999年に年間使用電力量3億kWh以上の需要家から始まり、段階を経て、2007年に一般家庭を含めた全面自由化となりました。
 その一方で、供給先を変えない一般家庭や小口需要家に対しては政府が決めた規制料金が適用されていました。規制料金の需要家は家庭用全体の60%にものぼり、その点では自由化が十分に行われているとはいえません。規制料金は2019年7月に撤廃が行われました。

イタリア電力業界の今後は

 規制料金の利用者が多いため、フランスなどと同じように電力の自由化の進展はもうひとつです。民間企業化したエネルは、イベリア半島や南米など国外のエネルギー事業に進出して、EU各国の電力会社を傘下に収め、現在ではヨーロッパ第2位の巨大エネルギー企業に成長しています。
 日本からの出資としては、イタリアへの直接参画ではなく、たとえば丸紅がエネルと共同してアジア各国の発電所建設に乗り出すといった企業間協力が行われているようです。