各国の電力自由化状況

ヨーロッパ

スペイン

2012年の経済危機から現在は回復途上

 スペイン王国は、16世紀の大航海時代に南米を中心に多くの植民地を築き、繁栄した国です。戦後はフランコ総統の独裁時代を経て、民主化が行われ、一時期はスペインの奇跡と呼ばれるほどの経済成長を見せました。ただ、2012年には経済危機で失業率が25%を超え、現在は回復途中にあります。
 スペインの面積は、50.5万km2と日本の1.3倍で、人口は4,673万人(2018年)。名目GDPは1兆4,258億ドル(2018年)で韓国に次ぐ世界13位。ヨーロッパでは第5位です。観光産業などで有名ですが、電力業界関連では、北部のバスク州ビルバオ市に、世界屈指の巨大エネルギー企業イベルドローラが本社をおきます。

電源の39%が再エネだが、FITの負担重い悩みも

 スペインは国内資源に乏しく、化石燃料等は輸入に頼っています。電源比率は2016年で再生可能エネルギーが水力13%を含めれば39%と最も多く、次いで原子力が22%、天然ガスが19%、石炭14%、石油6%となっています。
 スペインの再エネ開発の歴史は長く、1992年から積極的な導入が進められ、1994年には他国に先駆けて再エネのFIT(固定価格買取制度)を実施しました。
 その結果、再エネは2017年には風力2,314万kW、太陽光469万kW、太陽熱230万kWに伸び、スペインの発電設備の56%を占めるまでになっています。特に、風力は世界4位、太陽光発電は世界6位という実績です。さらに太陽光が強いことを利用して、太陽熱で蒸気タービンを回転させて発電する「太陽熱発電」が多いことも特徴です。
 ただし、2013年にはFITによる負債が260億ユーロ(約3兆1,720億円)にも上り、制度が一時廃止になりました。補助金がなくなったため、再エネ発電は伸び悩みましたが、近年は買取コストを抑制するため、入札制度を導入して復活しました。今後、再び再エネ発電が活況を取り戻すことが期待されます。
 原子力発電については、1986年のチェルノブイリ事故以降、新しい発電所の建設は行われていません。ただ、既存の原発は運用が続けられています。

電力業界は5大企業が支配

 こうしたスペイン電力業界は、古く1960年代には3,000社もの小企業が林立していましたが、1970年代の原子力投資などによる財政悪化で統廃合が進みました。2000年から電力自由化の影響もあって、海外資本の参加や撤退などの末、現在では5大企業がそれぞれ発電・配電・小売の子会社を持って、寡占を行っています。5大企業とは海外にも進出するイベルドローラ、エンデサ、ナトゥルギー、EDP HC エネルギア、ビエスゴです。
 なお、送電に関してのみは、1980年代に電力不安が起きたことなどにより、政府が送給電を安定させるために、スペイン電力系統会社(REE)を設立しました。REEは、現在でも独占体制にあります。
 電力の卸売に関しては、卸売電力取引所(MIBEL)が創設されて電気の売買が行われています。

スペイン電力業界の自由化と今後は

 スペインの電力自由化は、1998年にスタートし、段階的な拡大を経て、2003年には一般家庭を含めた完全自由化が達成されました。発電事業なども、E.ONなどの外国企業の参入が積極的に行われ、再編が行われました。その後、政府がFITの負担を電気料金に反映するのを禁止したことなどで、収益が悪化して撤退が相次ぎ、現在は前述の5大企業の寡占となっています。
 小売料金も自由化が行われています。ただ、フランスなどと同様に、小売電気事業者を変更しなかった需要者向けに、安い規制料金が用意されています。規制料金は一般家庭の9割、非家庭用の需要者の3割が利用しているとされ、自由化の妨げになっています。
 これからのスペインは、現政権が2050年までに電力の再エネ比率を100%に引き上げ、2040年までにガソリン、ディーゼルの自動車の販売禁止などの政策を提案しています。日本からは、東芝がナトゥルギーと大規模蓄電システムの実験を開始するなど、再エネ関連の投資が行われているようです。
 今後、規制料金が撤廃されるのか、再エネ比率100%は達成されるのかなど、電力業界の変化について、注目されます。