各国の電力自由化状況

東南アジア

フィリピン

日本の古い交易国で現在も深い関係に

 戦国時代から日本との交易が続く国で、人口は約1億300万人、面積は約29.9万km2と日本と同じ程度の国土を持ちます。GDPは3,309億ドル(2018年)で、1人あたりのGDPは3,104ドルとベトナム(2,553ドル)より高いものの、富裕層との格差が大きく、2人に1人が貧困層だといわれています。
 日本との関係は深く、2018年段階でフィリピンからの輸出はアメリカ、韓国に次いで日本が第3位です。輸入も中国、韓国に次いで第3位となっています。またODA援助は5億4,195万ドルと日本からが第1位となっており、深い関係を保っています。

高い電気料金、盗電が問題

 フィリピンの発電設備容量は2,142万kW。人口1億人を超える国家としては、同じASEANでも人口3,000万人のマレーシアが2,810万kWであるのに対し見劣りがします。電化率は88%程度で、大都市圏と地方での格差が大きいのも特徴。電力不足は深刻で、電気料金がASEAN諸国の中では際立って高く、日本以上の高額となっています。そのため電線を他の家庭から引き込んで電気を奪う「盗電」が常習化しているのも問題です。
 電源比率は、2015年段階で、石炭が48%、天然ガス22%、地熱12%、水力8%、石油が6%です。石炭火力は2000年頃には20%程度、天然ガスは0%だったのが近年増え始め、大きく比率を伸ばしています。石炭も天然ガスも国内には資源がないため、すべて輸入でまかなわれています。
 火山国のため地熱発電が多く、地熱資源はインドネシア、アメリカ、日本に次いで世界4位。日本企業も地熱発電プロジェクトを受注しています。近年、地熱発電の伸びはやや頭打ちですが、その他の再エネについては、太陽光と風力発電が伸びている状況です。
 なお、再エネについては、日本同様に固定価格買取制度が施行され、買取資金は電気料金に上乗せされ、国民から徴収されています。

電力自由化は進み、小売も民間主体

 フィリピンでは1990年代の国営のNPC(電力公社)の財政悪化などから、電力自由化が目指され、2001年には「電力産業改革法」が施行されました。公社の分割・民営化と、民間企業の参加で市場原理を取り入れ、電力価格などを安くする目的です。2006年に卸売電力市場が開始され、発電部門は民間のIPP(独立系発電事業者)が主体です。国営のNPCは発電所をIPPに売却しつつあり、小さくなっています。
 送電部門はフィリピンと中国の合弁企業であるNGCPが事業権を持ち、独占的に仕事を行っています。
 小売・配電部門も自由化が行われており、5割のシェアを持つMERALCO(マニラ電力会社)を中心に約250の企業と120の地方電化協同組合、自治体などが配電を行っています。

自由化の今後は

 電力事業の民営化・自由化が進展するフィリピンでは、発電事業に関しては外資系の参入に規制などは設けられていません。そこで、2006年に関西電力が参画したサンロケダムの水力発電所をはじめ、水力や石炭火力発電所などの分野で日本企業の参画が行われています。
 また、配電・小売事業には外資出資比率40%以下という制限はありますが、2019年に関西電力・中部電力などが、クラーク空軍基地跡地の開発で、配電事業に参入するなど投資が行われています。
 フィリピンでの電力事業は、政府の政策変更の多さ、コスト高などのリスクも伴いますが、今後も注目を続けたい国といえるでしょう。