各国の電力自由化状況

東南アジア

シンガポール

世界の金融センターであり、一人あたりGDPも世界有数

 シンガポールは、マレー半島の先端に位置する小さな島国で、面積は719㎞2と東京23区とほぼ同じくらいの土地に、人口561万人(2016年)が暮らしています。政治は人民行動党の一党独裁で、民主主義と独裁制の中間ともいわれます。
 シンガポールはまた世界屈指の国際都市で、世界の金融センターとしては、ニューヨーク、ロンドン、香港に次ぐ世界4位の都市です。国民の生活水準は高く、GDPは3,239億ドル(2017年)とフィリピンやマレーシアより多く、1人あたりのGDPも57,713ドルと世界トップ10に入る高水準です。
 日本との関係も良く、2002年にすでに自由貿易協定(FTA)を締結しています。

資源がなく発電は輸入天然ガスがほとんど

 シンガポールは国が狭いため、石油などの資源は持っておらず、水力・地熱・風力などの再生可能エネルギーもあまり期待できません。現在の電力供給は天然ガス95%、石油1%、石炭1%、再生可能エネルギー3%。輸入の天然ガスに大きく依存するほか、再エネとしてヤシ油などを使うバイオマス発電や太陽光発電を行っています。
 発電容量は1,335万kW(2017年)ですが、電力需要は700万kW。現状では大幅な供給過剰が続いています。電力網は非常に安定していて停電が少なく、顧客1件あたりの停電時間は14秒未満と大阪(4分)の約17分の1。その安定度は世界一ともいわれます。

電力は2018年11月から19年5月に全面自由化

 電力業界については、シンガポールの経済産業省(EMA)が統括していますが、2001年から市場の開放を徐々に進めています。
 2003年には卸売電力市場であるNEMS(国家電力市場)を創設。
 発電事業に関しては、政府系から民営化されたトゥアス・パワー社、パワー・セノコ社、パワー・セラヤ社をはじめ、現在は7社が競合しています。うちセノコ社は丸紅・関西電力・九州電力などがフランスの大手エンジーと共同で、国際入札で落札したものです。
 送配電事業については、SPパワー・アセット社の独占体制。SPグループは、元はシンガポール公益事業庁の事業を継承して、1995年に設立された企業です。
 小売部門に関しても、電力消費量が月2,000kWhを超える大口需要者9万社に対してはすでに自由化されていて、2018年には31の民間小売電気事業者が登録を行っています。
 また、2018年4月から一般家庭などの小口電力利用者の自由化も、一部の地域で行われました。その後11月後半から2019年5月まで4回に分けて地域ごとに自由化を行う予定です。すでに自由化が行われた西部ジュロン地区では、小売電気事業者の乗り換えを行った需要者の電気料金が平均して2割下がったとされ、効果は上がっているようです。

電力自由化後の動向は未知数

 今年、電力の完全自由化を果たしたシンガポール。しかし電力自由化の後は、一時的に電気料金が下がるものの、燃料費の高騰などにより結局料金が値上がりした、などの例が他国では多く見られるため、今後に注意が必要です。
 自由化後の企業参入については、外資の制限などはないようです。しかし国土が狭く需要者数も限られ、競合も多いと見られるので、動向が注目されます。