各国の電力自由化状況

北アメリカ諸国

アメリカ

世界経済の中心に位置する大国

 アメリカは、中国に次いで世界2位のエネルギー消費国であり生産国でもあります。
 アメリカの国土面積は982万km2と、日本の約26倍で世界4位。人口は3億2,716万人(2018年)と中国・インドに次いで世界3位です。長く世界経済の中心の地位にあり、名目GDPは20兆4,940億ドル(2018年)と世界1位、1人あたりGDPも62,606ドルと世界9位の水準です。アメリカを代表する大都市ニューヨークは、金融センターとして世界ランキングの1位を維持しています。
 アメリカは「合衆国」の名の通り、50州の州政府が集まって構成されており、州政府の権限が強い国でもあります。
 電力事情や電力の自由化も、州ごとによって対応が異なります。

シェール革命によってエネルギー事情に変化

 こうしたアメリカは、近年「シェール革命」によってエネルギー輸入国から輸出国への大変革を遂げつつあります。
 シェールガスとは、地下2,000~3,000m程度の深さにある、頁岩(けつがん=シェール)層の中に含まれた天然ガスです。シェールガスは、採掘と精製に費用がかかるため、これまでは重視されていませんでした。しかし2000年代になって、資源の枯渇などによる原油・天然ガスの値上がりで採算がとれるようになり、新時代のエネルギーとして注目を集めました。アメリカ国内の埋蔵量は豊富にあり、資源保有量でも世界一の地位に立とうとしています。実際にシェールガスにより、火力発電所の運用コストが半分に低下したともいわれます。

パリ協定脱退も再エネ利用は盛ん

 アメリカの発電総量は4兆770億kWhと、日本の約4倍。電源比率は、2016年で天然ガスが33%で石炭31%、原子力20%で水力6%、再生可能エネルギーが9%程度となっています。オバマ政権下では、再生エネルギー利用の促進が政策として行われましたが、2017年のドナルド・トランプ大統領就任後により、温室ガス排出量削減などを定めたパリ協定からアメリカが脱退。トランプ大統領は「アメリカ・ファースト・エネルギー計画」を掲げ、石炭利用の復活などを目指していますので、今後の動向は不明です。
 ただ、再エネ自体の普及は活発で、2017年では再エネ発電設備容量は1億4,716万kWに上ります(総設備容量の13.4%)。内訳は風力60%、太陽光が29%を占めます。カリフォルニア州など10州は、アメリカのパリ協定離脱後も、協定の目標を守る「米国気候同盟」を結成しています。また、全米29州では再エネ利用基準制度(RPS)が採用され、供給電力のうち一定の割合を再エネでまかなうことが決められています。

電力業界は、伝統的に州ごとに運営される中小企業が主体

 アメリカの電力業界は、伝統的に地域に根ざした事業者が主体で、発送配電を一括して行っています。日本のような大手電力会社はなく、州ごとの越境規制も厳しかったという理由もあります。最近では、停電時などへの対応を目的に、発・送電事業の広域的な再編が進み、現在では東部・西部・テキサスの3系統での広域送電体制が整えられました。
 電気事業者は、私営をはじめ、連邦営・地方公営・協同組合営に分かれ、2000年頃には3,000社がありましたが、整理統合が進み、約2,000社になっています。

電力の自由化は?

 電力の自由化については、1992年のエネルギー政策法制定によりスタートしましたが、発送電部門は連邦政府の規制委員会、小売部門は州の事業委員会により規制が行われていたため、自由化は別々に進行しました。
 まず、1992年のエネルギー政策法により適用除外卸発電事業者(EWG)という発電部門での独立系の事業者が許可され、自由に卸売ができるようになりました。
 小売部門でも各州で自由化が行われ、一時は全米50州のうち24州で全面自由化が検討されました。ただ、2000年から2001年にかけての「カリフォルニア電力危機」により、自由化の流れは一時期止まり、現在では完全自由化が行われているのは13州と首都のワシントンD.C.に留まっています。
 事業者については、自由化された州では発送配電と小売部門の分離が行われ、卸売も発電事業者から取引所を経由して行われています(相対取引も残されています)。一方で、自由化を認めていない州では、発送配電から小売部門までを一括して行う事業者が残されていますが、ここでも発送配電の分離は進んでいます。
 カリフォルニア電力危機と、2001年の大手エネルギー企業エンロンの倒産後は、各社とも本業回帰(Back to the Basics)をうたい、堅実路線での経営を行っているようです。

※カリフォルニア電力危機… 1998年に電力自由化を行ったカリフォルニア州で、2000年、2001年に起きた電力不足。2000年には1回、2001年には38回もの輪番停電が発生し、100万人の生活に影響が出、大手小売電力会社が倒産しました。
 2000年、ITブームなどによる電力需要の増大と発電量不足により、卸電力価格が高騰。しかし州の規制で、小売料金を低い値段で凍結していたため、電力会社が小売料金に卸電力の値上がり分を上乗せできず、経営状態が悪化しました。小売電力会社の危機に直面して、発電会社は電力を売り渋り、電力の供給難が発生。電力不足のため長期の輪番停電が起きて100万人の需要者に影響しました。この危機で、わざと卸電力価格のつり上げを行ったとされるエンロン他、複数の企業も倒産して、社会的問題になりました。

アメリカの電力産業への日本の参画は

 アメリカの電力事業への日本からの参画は、2018年に中国電力がコネチカット州での天然ガス火力発電所へ出資を行ったり、四国電力がオハイオ州で天然ガス火力発電所へ出資を行うなどが見られます。近年は、従来型の商社を通した取引ではなく、電力会社が直接海外投資を行うようになったのも特色です。特に卸電力市場の状況が安定しており、リスクの少ない北西部の発電所に投資する傾向が多いようです。
 シェール革命による天然ガス資源の低価格化や、トランプ政権のシェールガス活用方針などにより、天然ガス火力発電事業中心に今後も投資が継続するのか、行く末が見守られます。